映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

8月に読んだ本(後編)

昨日の続きで、8月に読んだ本について書いていきます。

セックス格差社会 (宝島SUGOI文庫)

この本も僕の中では【男のつらさ】に関連して読みました。

関連する図書ということで表示され、レビューも多くは好評だったので、古本を見つけたので読んでみました。

タイトルに「セックス」とあるのでややもすると、【モテない】男性を揶揄したり、どういった層が【モテない】のかを書いたものだと思われるかも知れませんが、前半部分はセックスの話でしたが、後半はセックスから派生して、日本が抱えている大きな社会問題でもある少子化や人口減少といったものにも切り込んでいきます。

セックスに関して言えば、【モテない】男性に焦点が当たっているわけではなく、これも社会問題である、セックスレスということにも切り込んでいます。

セックスレスがどういう社会階層の人々なのか、年齢や年収からひもとき、こう指摘しています。

一般に、30代、40代の男性の正社員ホワイトカラーは、仕事で多忙を極めている。「働きすぎ」によって、家族とともに過ごす時聞が少なくなり、セックスの頻度も低下してくるということだ。

また、社会問題としては、片親世帯が抱える諸問題(たとえばDVや子どもの給食費未納、「赤ちゃんポスト」)に言及し、より子どもを産み育てやすいようにするにはどうしたらよいか検討されています。

広く知られていますが、フランスでは1999年に、結婚をしていなくても共同生活をしているカップルについては、税や社会保障などの面で、結婚している場合と同様の法的権利が得られる「PACS(連帯市民契約)」という制度が始まり、そこから子どもがより産まれるようになったことを示したり、ロシアの移民事情に言及し外国人労働者の受け入れを提案しています。

子どもに関することでは既知の内容も沢山ありましたが、とても良い内容だったと思います。

ルポ 中年童貞 (幻冬舎新書)

これも【男のつらさ】関連で読みました。

ここ数年(10年くらい?)、「ルポ」と銘打った新書が沢山出ていますが、僕の印象だとあまり外れがないような気がしています。

この本には数々の【中年童貞】が出てくるのですが、そもそも中年の童貞を見つけて取材出来ているという時点ですごいことだなと思います。

基本的に【童貞】というのは【恥】であり、それが【中年】にもなれば他者に言うことはないでしょう。

中年じゃなくても、自分が童貞かどうかを話すなんて高校生の時にしか聞いたことがない気がします。

で、いろんな【中年童貞】の人が出てくるのですが、共通していたのは【(精神的)マザコン】です。

現に中年になっても年老いた母親と同居している人の割合が高いことに驚きます。

これは、男性当事者自身の問題であると同時に、いろんな理由を付けて息子を同居させている母親の問題でもあると思います。

最近だと【介護】だったり、現に介護が必要じゃなくても、「何かあったら困るから」と言って、息子が同居していることで安心している母親の声も身近なところからも聞こえてきます。

また、なぜ近年になって【中年童貞】が増えてきたのかということにも少し触れられていています。

善し悪しは判断しませんが、ムラで夜這いがあったり、大人へのイニシエーションとしての若者衆への加入と性交というのは、赤松啓介さんが著書で明らかにしていたことです(『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』)。

【中年童貞】であることの何が問題なのかといえば、「自己評価と現実の市場価値がかけ離れている」ことです。

自己評価が高すぎて、現実的に自分がどのような評価をされているのかが把握できておらず、そこのかなりの差があることで、他者との軋轢を生んでいるということでした。

また、男性の非正規雇用者が増えたことによって(今後も増え続けることによって)、今後も【中年童貞】は増えるだろうという見立てをしていて、この問題が単に男の生き方とかそういう話ではなく、社会の構造と密接に関わっているということも示されていて好感が持てました。

これだけでも大きな仕事だとは思いますが、同じような質で【中年処女】のルポがあれば、男女でどう異なるのか明らかになり、より面白くなると思いました。

職業としてのAV女優 (幻冬舎新書)

これも『ルポ 中年童貞』を書いた中村淳彦さんの本です。

中村さんは元々AV女優に関するインタビューなどを書いていたライターだったそうで、関連する本として表示されたので、続けて読んでみました。

全く知らない世界というか業界の話なので、とても面白かったです。

特に、著者が長年(20年くらい?)この業界で仕事をしているので、AV女優に求められる素質や仕事の内容、そして給料などの変遷が年代を追って説明されていたのはわかりやすかったです。

その流れで読むと、何故TVタレントとしても通用するようなビジュアルの女性がAV女優に多くなってきたのかや、逆にTVタレントだった女性がAVに出演するということが起きているのかも理解出来ました。

そして、何より真摯だなと感じたのは、AVに出演するリスクを明示していたことです。

一般的に考えられているリスク(家族や恋人にバレる)ということについてはもちろんのこと、裸での仕事なので危険が伴うことを実例で示していました。

女性が大きなケガを負ってしまうような撮影が何故起きるのか、ということも法律面(そもそもAVは法律的にグレーな存在なのでどこまで許容されるのかが曖昧)やAV業界の状況をひもとくことでとてもわかりやすかったです。

持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない (幻冬舎単行本)

8月最後に読んだ本です。

新宿の紀伊國屋書店に行った時に見つけた本で、その場では買わなかったのですが、AmazonKindle版で安く買えた(ポイントがかなりついた)ので読んでみました。

なぜ読んでみたいと思ったのか、というと、以前、伊藤洋志さんの『ナリワイをつくる』という本を読んでいたからで、この『ナリワイをつくる』の続編的な感じで伊藤さんと今回の本の著書phaさんとで『フルサトをつくる』という本を出していました。

『フルサトをつくる』は読まなかったのですが、そのときにphaさんの存在を知り、調べてみたらこの『持たない幸福論』も評価が高かったので読んでみることにしました。

著者のphaさんが京都大学を卒業したあと、企業に勤めたものの、その生活が合わずに辞め、シェアハウスを運営しながら毎月10万円で暮らしているということについてと、そのあまりものやお金を持たずに生活する中での心得や方法が書かれています。

印象的だった言葉はこれです。

何か物を持つということはその管理コストを抱えるということでもある。持っている物が増えると収納するための空間的コストだけではなくて、「○○が壊れちゃったから修理しないと」(中略)みたいに、物の管理や維持について考える心理的コストが日常の中で増えていく。

これによって、人間らしく(あるいは幸せに)生活するために仕事をしているのか、物を維持するためのお金を稼ぐために仕事をしているのか分からなくなってくるし、色んな物を持っているということは柔軟に対応する(物理的にも精神的も)ことが難しくなってくると。

本当にその通りだなぁ、と思います。

子どもたちがいることや、さらに僕の素質でも収集性があるので、どうしてもものが増えてしまう我が家。

さらにツレは新しいものを買ってきてもその分捨てるということはしないので(僕は何かを買ったらその分捨てるように心がけています)、家にものがあふれています。

精神的な維持コストというのはあまり感じないものの、物理的に家の大半が「物置場」になっているのはその通りで、家賃に換算したらかなりの額になるのではないかと思います。

ということで、TVドラマに出てくるような生活感がない部屋で暮らすのが長年の夢なのですが、夢、というのりは、ものがあふれた生活をしていると、色々と身動きが出来なくなる、ということなのかもしれません。

ものがあればあるほど維持コストはもちろん、引っ越しは負担になるし、考え方も固まってきてしまうのかも知れません。

また、著者が月10万円ほどで【貧困】に陥らず、幸福な生活をしている、というのは(著者や出版社の意図とは異なるかも知れませんが)【貧困】がこれだけ大きな社会問題になっている中、いくつかの対策に役立つのではないかと思います。