『かたちだけの愛』
平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』を読んで以来、また小説を読むようになりました。
高校生の時に小説をたくさん読んでいたのですが、そのきっかけは福田和也さんの『作家の値うち』という本をたまたま書店で手に取ったからでした。
それまでは既に評価の確定している小説をたまに読むくらいで、殆ど読まなかったのですが、この本で評価の高かったものをとりあえず読む、ということで、村上春樹の小説を読むようになったりしました。
それ以来、読んだことのない作家の小説を読む機会もあまりなく過ごしていたのですが、『マチネの終わりに』が面白かったので、平野啓一郎さんの作品で古本屋さんにあったものをとりあえず読んでみました。
物語は、事故による大怪我で片足を失った女優と、たまたまその事故に駆けつけたことによって彼女の義足を作ることになったデザイナーとの交流です。
次第に2人は関係を深めていくのですが、その中で過去の出来事による嫉妬や、誤解などですれ違いも起きる、というもの。
この作品の中で僕が印象的だったのは、主人公相良がかつて暮らしていた実家の近所にいた幼馴染みとの再会の場面。
ちょっとしたすれ違いで最終的には結局何も起きずに2人はまたそれぞれの日常へと戻るのですが、その「ちょっとしたすれ違い」によって日々の出来事が積み重なっていくのだ、と他の部分でも感じられるようになっていました。
それがリアルに自分に迫ってくるように感じたのは(そんな経験はありませんが)、僕が主人公に近い年齢ということだからなのかな、とも思います。
この作品も割と読みやすく、僕としてはエンターテインメント的な感じの印象を受けたのですが、多分それは、もともと新聞連載だったからかもしれません。
現代の新聞連載の小説は読んだことがないのですが、新聞連載だからか、物語のリズムが整っているように感じました。