映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

家族と暮らしていた3月までも新しく誰かと出会う、という機会はそもそもそんなにない生活を送っていたのですが、今は、1日誰とも会話をしないということも割と多くなりました。
そもそもそんなに会話が必要な気質ではなかったようで、3人の子どもたちと必然的に話をしていたので、それでお腹いっぱいという生活でした。
それが、1人で暮らすようになり、一日中誰とも全く会話を交わずに過ごしていると、さすがに誰かと話をしたいなぁ、という気になることがあります。

そういうば、そんな本があったよな、と思い出し、読んでみました。

タイトルが長く、タイトルに「出会い系」と刺激的な言葉が入っているのからか、出版前後にいくつもの媒体で取り上げられていたので、既に読んでいる人も結構いるかも知れません。

 

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと Kindle版

 

内容河出書房新社の公式サイトより)
夫に別れを告げ家を飛び出し、宿無し生活。どん底人生まっしぐらの書店員・花田菜々子。仕事もうまく行かず、疲れた毎日を送る中、願うは「もっと知らない世界を知りたい。広い世界に出て、新しい自分になって、元気になりたい」。そんな彼女がふと思い立って登録したのが、出会い系サイト「X」。プロフィール欄に個性を出すため、悩みに悩んで書いた一言は、「今のあなたにぴったりな本を一冊選んでおすすめさせていただきます」———。
実際に出会った人達は魑魅魍魎。エロ目的の男、さわやかに虚言癖の男、笑顔がかわいい映像作家……時には自作ポエムを拝見し、かわいい女子に励まされ、優しい女性のコーチングに号泣しながら、今までの日常では絶対に会わなかったような人達に、毎日毎日「その人にぴったりの」本を紹介。え、もしかして、仕事よりもこっちが楽しい?!

サイトの中ではどんどん大人気になる菜々子。だがそこに訪れた転機とは……。
これは修行か? 冒険か? 「本」を通して笑って泣いた、衝撃の実録私小説

感想
「出会い系」とタイトルにありますが、男女交際を目的とした出会いではなくて、30分の約束で話を聞く、という出会いを促すアプリがあるそうです。
本文は「X」と書いてあるので良く分からないのですが、たぶん、CoffeeMeetingとかかな、と思います。

この本を読もうと思った理由は、この本で載っている方法を参考にして誰かの話を聞きたいなと少し思ったことと、もう一つは著者の花田さんがこの出会い系サイトで実際に会うということを始めたきっかけが、元夫との別居だというのを目にしたからです。

誰かと交際したいということではなく、パートナーと子どもたちと別居し、悶々、もやもやとした日々の中で何かを新しく始めたい、という気持ちもあり、何か参考になれば良いな、と思ったのです。

出版社や紹介している媒体でこの本が「小説」と書かれていることには少し疑問がありますが(極私小説ということなのでしょうか)、そこに登場するというか、花田さんが出会う人たちのキャラクターなども面白いのですが、僕にとって一番興味深かったのは、そこで出てくる「本」です。

もちろん知っている本、読んだことのある本も出てくるのですが、知らない本が沢山出てきていて、しかも、花田さんは紹介するだけあって、ちゃんとその本の魅力や、なぜその相手にその本が良いと思うのかを書いていて、それがとても魅力的に映りました。

単にいろんな本を知っているというだけでなく、魅力を伝えるには、それぞれの内容だけでなく、良さを分かっていないと出来ないことで、花田さんがいかに普段から本に触れているか、本が好きなのかがとても伝わってきました。

この本に出てくる当時花田さんはヴィレッジヴァンガードで勤めていたのですが、本好きということが自分の中からも再発見されたからか、今は書店に転職されているようです。
「自分が本当にやりたいこと」「自分はどう生きたいか」という問いに対して、考えを巡らせていると答えの見つかる人もいますが、花田さんのように当初はそれを考えるためではなくてもとりあえず行動し、いろんな人との出会い、関わりの中で明確になっていく、という人もいるのだと思います。
作中の花田さんが僕と同じくらいの年齢だということ含め、参考になったというか、勇気づけられる作品でした。