映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「妖精たちの森」

 先日読んだ町山智浩さんの『トラウマ映画館』で紹介されていた映画はいろんな事情で観られないものもあるのですが、先日TSUTAYAディスカスで旧作が一本77円だったときに借りて観ました。


妖精たちの森 [DVD]

 
作品データ映画.comより)
監督 マイケル・ウィナー
原題 The Nightcomers
製作年 1971年
製作国 イギリス
配給 ブエナ ビスタ

ストーリー(映画.comより要約)
 幼い姉弟、フローラ(V・ハーベイ)とマイルズ(C・エリス)の両親はインド滞在中、自動車事故で死亡したため、姉弟が財産を管理できるようになるまで、伯父が後見人になっている。両親の死は、まだ二人に知らされていなかった。後見人がロンドンに立ったあと、この広大な邸には、姉弟と、家庭教師のジェスル(S・ビーチャム)、ミセス・グロース、下男のピーター・クィント(M・ブランド)の五人が残された。
 クィントは無知で粗野であり、後見人には嫌われていたが、屋敷内でただ一人の男性ということで、辛うじて首がつながっていた。しかし、幼い子供たちにとって、クィントの占める地位は大きかった。外での遊びはすべてクィントに教えられ、実生活での知恵もすべて彼によるものだった。
 家庭教師のジェスルは、ある晩、クィントに犯され、以来肉体関係をしいられ続けてきた。心ではクィントを憎悪しながらも、夜ごとの侵略を拒みきれず、いつの間にか愛欲の世界に溺れていた。その上、クィントはサディストだった。ある日、たまたま寝室をのぞき見したマイルズは、二人のからみ合う姿を目撃し、それがどういうことかとも判らないまま、姉のフローラをさそってクィントとジェスルの真似をするようになった。
 こうした好奇心のかたまりのような子供たちの言動はクィントとジェスルを追いつめていった…。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 この作品に登場する人物は少なく、両親を事故で亡くしたことを未だに知らされていない姉弟のフローラとマイルズ、屋敷の管理を任されている家政婦のミセス・グロース、姉弟の家庭教師ジェスル、庭や馬の世話をする下男のクイントです。
 姉弟の後見人である伯父はロンドンに帰ってしまい、子ども2人と大人3人が広大な敷地と屋敷で暮らすことになります。

 夜な夜な下男のクイントは厳格な家庭教師ジェスルの部屋に忍び込み、肉体関係を迫ります。
 その様子が原題「The Nightcomers」の由来でしょう。
 けれど、原題は複数形。
 クイントだけでなく、他にも夜な夜な来る人がいて、それは誰かというと、子どもたちです。

 クイントがジェスルの身体を縄で縛る様子や、セックスする様子をマイルズが見ていて、姉のフローラに試そうとする。
 その様子を見て驚いたミセス・グロースに何をしているのかとがめられると、無邪気に「セックスだよ」と答える子どもたち。

 なぜ2人がそんなことをするようになったのかと言えば、クイントとジェスルが関係を持っているからだとグロースにも分かり、2人を追い出そうとします。
 子どもたちはジェスルとクイントが身分も年齢も違うけれど愛し合っていると信じていて、それは多分本当のことなのだけれど、愛し合う2人がどうなるのか、というと、クイントが子どもたちに教えたことが原因で2人とも悲劇的な最後を迎えます。

 子どもたちにとってはクイントとジェスルの最後はあくまでも「愛し合う2人にとって当然の結果」であり、「幸せ」だと考えているからこそ、その後の生活に動揺は見られません。
 日本語タイトル「妖精たちの森」は子どもという存在を妖精と捉え、子どもの無邪気さや素直さ、清純性などを想像するかも知れませんが、だからこそ一番残酷な存在にもなり得るという事実を表しているように思いました。
(例えば、様々な暴力集団が少年を育成するのは、教育する上で年齢が低い方が覚えが早いなどもありますが、何が大切かや自分なりの信念が形成されていないために、大人よりも残酷で非道な行為もためらわずに行えるからだと言われています。)

 タイトルからは想像出来ないような内容でしたが、とても印象的なシーンがありました。
 クイントとジェスルがセックスした後で交わす愛についての会話です。 

ク:自分なりのやり方で愛する それだけだろ
ジ:でも苦しみしかないわ そして痛み すべて 不潔よ
ク:始めた時 何を期待したんだ? もっと甘いものだとでも?
ジ:穏やかなものよ
ク:生まれる時や 死ぬ時に 苦しまないとでも思ってるのか? 愛する時にも 痛みはないと思ってるのか?

 
 ジェスルは愛やセックスに穏やかなものを求めているけれど、実際は苦しみや痛みがあり、不潔だと感じている。
 それに対し、クイントはそもそも生まれた時から痛みがあり、死ぬ時も苦しむのだから、愛する時に痛みや苦しみがあると答える。

 どちらが正しいかは分かりませんが、僕にとってはクイントの考えの方が分かるように感じました。
 けれど、ここで語ったクイントの言葉通りのことが実際に起きてしまうことを考えると、僕自身もそうなるのかも知れません。