映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

福満しげゆき『中2の男子と第6感(1)』

 去年書いた『妻に恋する66の方法』と同じ福満しげゆきさんの『中2の男子と第6感』の一巻がKindleで無料だったので読んでみました。

 『妻に恋する66の方法』は今も読み続けていますが、最初どうにか元配偶者との溝を埋められないかと試行錯誤する中で読み始めたもので、自分はもう独り身になったので、今後も読み続けるかどうか思案中です。
 まぁ、ラブラブなのを見せつけられるという感じではなく、掛け合い漫才的な感じなので、楽しめてはいるのですが。

 


中2の男子と第6感(1) (ヤングマガジンコミックス) Kindle版


 この作品、とても良かったです。
 福満さんの作品は、基本的にネガティブな主人公が過ごす日常を描くものだと思うのですが、ネガティブだとしても決して単にそれで終わりではなく、その日常の中で笑える出来事を描き出すところがすごいな、と思うのですが、この作品もそのあぶり出し方が秀逸でした。

 主人公の中学2年生の男の子は学校でいじめられ、妄想でメガネ女子の「師匠」を作り出す。
 師匠の元にケンカの練習をしたり、漫画を書いたりするのですが、実は師匠は単なる妄想ではなく、実在の人物とリンクしている、という、単に「厨二病」とも揶揄される中2男子の妄想で済ませずに物語を成立させています。

 師匠の訳の分からない色気とか、やりとりも面白いのですが、この作品の中でとりわけ惹かれたのは、師匠の言葉です。
 いじめられて、死のうとする中2男子に向かって、師匠がこんな言葉をかけます。

死んであいつらに ダメージを与えるつもりなら
そんなに効果はないよ
それどころか DQNは「仲間」とかをテーマに
ポエムみたいなことを 言うのが好きだから
DQNポエムのテーマにされて
のちに「イジメ相談」 的なNPO法人を 立ち上げ
やがて 議員にまで 出世するかも しれないね

 
 単に「そんなことしちゃダメ」とか「悲しむ人がいるよ」とかいう言葉ではなく、結局自分が死んでも、そこまで追い詰めた人物は一切痛みを感じることはなく、むしろそれを利用する。
 苦しみにあって、死のうと思い悩んでいる人にとっては残酷な言葉でさえあるのですが、それが現実なのだと思います。

 僕もうつになり、何度も死のうとしましたが、その時は死ぬことしか考えられなくなりましたが、あとになってみると、自分が死んだところで、むしろそこまで追い詰めた人物は何の痛みを感じることなく過ごしているし、僕が死んだところで逆に「自分が近くにいなかったのに救ってあげられなかった」と言ってはばからないでしょう。
 そんな人間だからこそ人を追い詰めることが出来るのだし、そういうことを言える人物こそが生き残る。

 『妻に恋する66の方法』や『僕の小規模な生活』では、作品の設定上、こういう社会をどう見ているかということや福満さんの知識などは描かれないのですが、この作品では、「『ファイト・クラブ』システム」だったり、「『我思う故に我あり』的な理論」だったりと、福満さんの知識や観てきた映画などが垣間見えるシーンがあり、そのネーミングセンスも含め、それが良いなと思いました。