映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「メゾン・ド・ヒミコ」

 実家で生活している僕より年上の同僚が、特に仕事があるかどうかについて、ポロッとこの後生きていけるのだろうか、という不安を口にしていました。
 外国人を積極的に入れようとしているくらいだし、今でもコンビニや飲食店など、ちょっときつい仕事では外国人頼りになっているので、大丈夫ですよ、と言ったのですが、不安がないと言えば嘘になります。
 僕の生活スタイルというか、人生で望むものに、家とか高価なものというのはないので、お金を稼ぐ上での仕事については、まぁ、なんとかなるだろう、とは思っていますが、僕も家族との5人での生活から突然追い出されたので、1人で生きていく、ということを考えると不安になります。

 僕自身は事実婚も経験したことがあるので、法的にパートナーとして認められてない人と共に生きていく、ということの危うさを少しは分かると思うのですが、そんな人たちの物語を今回観ました。


メゾン・ド・ヒミコ



メゾン・ド・ヒミコ | アスミック・エース

作品データ映画.comより)
監督 犬童一心
製作年 2005年
製作国 日本
配給 アスミック・エース
上映時間 131分

ストーリー(公式サイトより)
 私を迎えに来たのは、若くて美しい男。彼は、父の恋人だった。塗装会社で事務員として働く沙織。ある日、彼女のもとに若くて美しい男・春彦が訪ねてくる。彼は、沙織と母親を捨てて出て行った父の恋人だった。沙織の父は、ゲイバー「卑弥呼」の二代目を継いだが、今はゲイのための老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」を創設、その館長を務めているらしい。春彦は、その父が癌で余命幾ばくもないと言い、ホームを手伝わないかと誘う。父を嫌い、その存在さえも否定して生きてきた沙織だが、破格の日給と遺産をちらつかせて、手伝いに行くことを決意する。死にゆく父親、その父親を愛する春彦、そんな二人を見つめる沙織……いつしか三人に微妙で不思議な関係が芽生えていく。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 
前から知っていた作品ではあるのですが、オダギリジョー柴咲コウを特にこれと言って好きではなかったこともあり、なんとなく敬遠していました。
 が、「深夜食堂」でオダギリジョーが結構好きになったことや、前から気になっていた作品だったことから、公開されてから13年も経っていますが、Amazonで無料だったので観てみました。

 主人公の沙織(柴咲コウ)がかつて家から出て行ったゲイの父親ヒミコ(田中泯)が創設したゲイの老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」にやってきます。
 沙織を呼んだのは、ヒミコの今のパートナーの春彦(オダギリジョー)。
 ヒミコは末期がん。
 死が迫ってきたので父親がかつて捨てた子どもに会いたいと願い再会を果たし、邂逅していく、ということではなく、パートナーである春彦が半ば無理矢理に引き合わせたという点が良かったです。

 最後の最後まで邂逅するということはなかったように見えましたが、ヒミコが言いたいことをとりあえず沙織に言ったという場面はとても感動的でした。
 たとえ死が迫ってきていても、それまであった溝を簡単には埋めることができない、という現実、だからこそ言いたいことは言っておく、というのがとても現実的に感じました。

 また、春彦と沙織が少しずつ惹かれ合い、セックスをしようとするけれど、結局出来なかったこと、それもあって沙織がクズだと分かっている男に身を委ねるという流れも分かるような気がしました。
 それでも良かったのは未来のない関係に完全に身や心を委ねていないこと、ヒミコが死んで関係が終わったと思ったホームのメンバーと沙織とがこれからも関係を続けていくようなラストです。
 春彦と沙織が恋愛関係や肉体関係を持つかは分かりませんが、それらを超えた結びつきというようなものがある、ということを示しているように思います。

 ゲイの老人ホーム、しかも、元々の建物がホテルということもあり、あからさまな差別を受けつつも、最初ずっと眉間にしわを寄せながら彼らに接していた沙織の表情が柔和になっていったり、いたずらを繰り返す中学生がホームのメンバーにいろいろ教えてもらったり、山崎さんと沙織が2人で女性ものの洋服を着回すシーンや、みんなで横浜に繰り出し踊るシーンなど、とても印象的な場面が沢山ありました。

 ゆったりと時間が流れるこの感じ良いな、と思ったら、好きな作品である「ジョゼと虎と魚たち」と同じ犬童一心監督、渡辺あや脚本でした。