映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「あなたのママになるために」

 Amazonプライムの対象作品を眺めていた中でレビューの評価が高かった作品だったので観てみました。
 


あなたのママになるために(字幕版)

 
作品データ映画.comより)
監督フリオ・メデム
原題 Ma ma
製作年 2015年
製作国 スペイン・フランス合作
上映時間 112分

ストーリーWOWOWより)
ある夏。失業中の教師マグダは夫と別居しながらひとり息子ダニを育てていたが、右胸にしこりを見つけて病院で診察を受けると、乳がんと宣告される。医師フリアンによる右胸の切除手術を了承するが、同じころ、交通事故で娘を失った、レアル・マドリードのジュニアチームでスカウトマンをしている男性アルトゥーロと出会い、悲劇に見舞われた者同士、心を通わせるように。切除から1年、家族と幸福に暮らしていたマグダだが……。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 冒頭に映し出されるのは、雪というか氷河の中歩く1人の少女。
 「あなたのママになるために」というタイトルから、この女の子のママになる話なのかな、と思って観ていたのですが、ちょっと違いました。
 確かに冒頭に出てくる少女は物語が展開されていく中で度々出てくるのですが、あくまでも写真だけしか出てきません。

 基本的には、ペネロペ・クルス演じるマグダとそのひとり息子ダニ、そして担当医であるフリアンと闘病生活中に出会うアルトゥーロの四人です。
 大学教員で、教え子の学生と一緒に家を出て行った夫もあまり出て来ず、基本的にはこの四人だけで物語が展開されます。

 この映画を観ていて痛感したのは、以前読んだ『身体のいいなり』の時も同じだったのですが、胸(おっぱい)を失うという感覚がよく分からないということです。
 男性でも乳がんになることはあるものの、多分僕が乳がんになり、乳房や乳首を切除すると言われてもあまりショックは受けないと思います。

 けれど、この映画や内澤旬子さんの『身体のいいなり』でも描かれていたのは、すごく執着している訳ではなく、生き残るためには、がん細胞を取り除くためには乳房や乳首を切除することは受け入れるけれど、でも、やっぱりなんとかして残したいという気持ちが描かれています。

 ペネロペ・クルスの胸はきれいでしたが、客観的にきれいかどうかとかそういうものよりも、自分の身体の中でもよく目につくし、それなりに今まで気にしてきた部分ということが大きいのかな、と思います。

 男性だとそういう客観的な指標というか評価にもなり得て、かつ自分自身でも割と気にしたり手入れしたりする部分ってどこかあるかな、と『身体のいいなり』を読んで以来考えているのですが、無いような気がします。

 だから、この映画を観て、実際に右胸を切除してそれを鏡で初めて直視した時の心境や、傷跡は残っているものの、自分の身体として自分の中で少しはなじんできた時の心境というものは、どう想像しても、分かろうとしても分からないような気がします。

 けれど、生まれもった、その男女の身体の違いから起こる「わからなさ」にちょっと絶望的な気分にもなっていたのですが、ラストの描写が良かったです。
 赤ちゃんを囲む中で彼女を見つめる3人。
 それが最終的には男女という性別だけでなく立場を越えて、マグダによって結びつけられた人たちだったからです。