映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「ゴッド・タウン 神なきレクイエム」

 結構好きな俳優の1人にフィリップ・シーモア・ホフマンがいます。
 日本で言えば大杉漣のような名バイプレイヤーで、いろんな作品の存在感のある脇役をしているかと思えば、主役もしっかりこなせ、貧相な役から紳士な役まで本当にいろんな役を演じていました。
 そんなフィリップ・シーモア・ホフマンも5年前に40代で突然亡くなってしまったのですが、彼の遺作になった作品の1つがこの映画です。
 


ゴッド・タウン 神なきレクイエム(字幕版)

 
作品データ映画.comより)
監督ジョン・スラッテリー
原題 God's Pocket
製作年 2014年
製作国 アメリ
上映時間 88分

ストーリースターチャンネルより)
郊外の町ゴッズ・ポケット。妻のジェニーや彼女の連れ子レオンと暮らしているミッキーは、チンピラ稼業で身を立てていた。そんな中、恐いもの知らずのレオンが仕事先の建設現場で仲間の怒りを買って撲殺されてしまう。結局、事故死として処理され、ミッキーは葬儀の準備に取り掛かるが、費用をギャンブルで失ってしまう。さらに、コラムニストのリチャードがレオンの死に疑いを向けたことから、事態は思わぬ方向に転がってゆく…。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 原題は「God's Pocket」=神のポケットで、日本のタイトルは1つの街での出来事なので、「ゴッド・タウン」になっていますが、原題と全く意味が違っています。
 God's Pocketという名前がついている街なのだけれど、そこではこんなことが起きています、ということで物語が展開していくのですが、神のポケットという名前の街だろうが、神の街だろうが「神」に関する名前がついた街であるということには変わりがないということなのでしょうが、やっぱり違うように感じます。

 「ゴッド・タウン」であれば、それはまさに「神の街」で、そこには悪や汚れ、あるいは苦しみや悩みというものも存在しないでしょう。
 けれど、Pocketにはいろんな意味があって、例えば、「空洞」だったり、今回の物語では死んでしまった義理の息子の葬儀代を捻出するためにミッキー(フィリップ・シーモア・ホフマン)が右往左往する様子を描いているので、「所持金」や「資金」を表しているとも考えられますし、感情を「抑える」「隠す」という場合にも使われます。
 空洞に関連して言えば、(主に軍事的に)「孤立している地域」を指していたり、お金に関して言えば、「着服」という意味をも含んでいます。
 これらの、Pocketに含まれる様々な意味に関しする出来事が、この作品では展開されていきます。

 息子の葬儀代の足しにと集めてくれた募金を競馬でする男、ナイフを振り回し強がって見せていたレオン、そのレオンの脅しが一線を越えてしまったことでレオンを殺した黒人のおじいさん、その場面をみていた職場の同僚たち、レオンの死の真相を探ろうとしてきたチンピラ、有名コラムニストでアルコール依存症のリチャードはレオンの死の真相を探ろうとしつつジェニーを寝取る。

 ろくでもない人間ばかりが集まっていて、まさにそれはGod's Pocket、神のポケット(空洞)かのような、神の力がスポッと抜けてしまっている街かのように見えました。
 けれど、年間1万7千人もの人たちが殺されていて(参照:U.S. Murder Rate for 2018 Is on Track for a Big Drop - The New York Times)、世界の囚人の1/4がアメリカにいる(世界の受刑者の1/4は米国に | ハフポスト)ことを考えれば、この映画で出てくることが突拍子もないことではなくて、ありふれたとは言えないけれど、まぁ、あるんじゃないか、と思うような出来事なのだと思います。

 映画含め、テレビなどで映し出され、日本に入ってくる「アメリカ」というものは、どうしても一面で切り取られたものであるので、こうした人々のろくでもない街から抜け出すことも出来ない、ろくでもない人生のろくでもない出来事を切り取った映画というものも、1つのアメリカの姿を伝えていると感じました。