映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

はるな檸檬『ダルちゃん』

 年末に今年を振り返る内容のラジオ番組を聞いていたら、2つの番組で同じ作品が取り上げられていました。
 最初に聞いた番組はライムスター宇多丸さんのアフター6ジャンクションで(プロが選ぶ2018年ベスト「マンガ」は?【ダルちゃん、えれほん、ほしとんで、見えない違い…】)、もう一つは文化系トークラジオLife「文化系大忘年会2018」です。

 両方で触れられてたのが『ダルちゃん』という漫画で、元々は資生堂のサイト上で公開されていたものが単行本になった作品ということで、ネット上でちょっと読んでみたら面白かったので、手に取って読んでみました。

ダルちゃん | 花椿 HANATSUBAKI | 資生堂

 


ダルちゃん(1) (コミックス単行本) Kindle版

 
ダルちゃん 1 | 小学館

内容小学館書籍紹介ページより)
普通の人に「擬態」しても、生きづらい。
ダルダル星人の姿を隠して、一生懸命に「働く24歳女性」に「擬態」するダルちゃん。
ダルちゃんは「普通」じゃない。そのままの姿だと気持ち悪がられます。
だから社会のルールを一生懸命覚えて、居場所を探します。
誰かに合わせて生きていると、自分が本当は何を考えているのかわからなくなるけれど、それで相手が喜んでくれているのなら、人に合わせることの、何がいけないのだろう――。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★★

感想
 
そもそも資生堂で公開されていた作品ということで、主人公のダルちゃんが女性だということも含め、「女性向け」に描かれていると思うのですが、とても良い作品だと感じました。

 主人公の丸山成美は24歳で派遣社員をしていて、実はその姿は「仮の姿」で、本当は「ダルダル星人のダルちゃん」ということで、「本当のわたくし」の時は見た目もダルっとした姿に変わります。
 本当はダルダル星人なのに、なぜ「仮の姿」で過ごしているのかということを、子どもの時からの様子を振り返る中で分かります。

 シンプルに言えば、育っていく環境の中で僕たちは様々な「形」を求められてきていて、その「形」に合うように、合わせることが出来るように求められています。
 その「形」は、例えば、男性である僕が経験したものならば、「仕事するときは、あるいは人に会うときは髭をきれいに剃ってくるもの」だ、とか、そういったものです。
 そういう「形」は様々な所にあって、人が集まるところには必ずあります。

 数人しかいない家族でも、その家族にはその家族に求める「形」があるし、学校には学校の、会社には会社の、あるいは、そういう組織とかではなくても、自分を表すような、例えば25歳の「形」、女性の「形」、派遣社員の「形」があります。

 この作品の良いところは、女性を主人公にしているものの、その「形」に合わせ、「仮の姿」で過ごしているのは、女性だけではないということをまずは描いているところです。

 そして、その上で、「仮の姿」で生きていくのは息苦しく、「本当のわたくし」を見出し、それを誰かに認められるというしあわせも描かれます。
 ここまでなら、まだ今までにも描かれてきたかも知れませんが、この作品はそこから一歩さらに踏み込んで展開されています。

 ネット上ではラストの展開に賛否両論交わされたということで、僕自身は予想外の展開には思わなかったものの、それでもこのラストの展開は、「本当のわたくし」を見つけ出し、誰かに認められるしあわせというものから一歩踏み込んでいて、その点が今までに無い作品だと思いました。