映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「ありがとう、トニ・エルドマン」

 大学生の時に、「ぶみはユーモアが足りない」というようなことを言われたことがあります。
 自分でも自覚していて、バカ騒ぎではなく、道化師になれるようなユーモアが、道化師になりきれない変なプライド含め、今もユーモアが足りないなぁ、と思っています。
 そんな、ユーモアとは何かとか、ユーモアを持ちながら生活すること、生きることを描いたのがこの作品です。
 公開当初から気になっていてAmazonプライムで観られるようになっていたので観てみました。

 


ありがとう、トニ・エルドマン(字幕版)

 

youtu.be


映画『ありがとう、トニ・エルドマン』公式サイト

作品データ映画.comより)
監督 マーレン・アーデ
原題 Toni Erdmann
製作年 2016年
製作国 ドイツ・オーストリア合作
配給 ビターズ・エンド
上映時間 162分
映倫区分 PG12

ストーリー(公式サイトより)
悪ふざけが大好きな父・ヴィンフリートとコンサルタント会社で働く娘・イネス。性格も正反対なふたりの関係はあまり上手くいっていない。たまに会っても、イネスは仕事の電話ばかりして、ろくに話すこともできない。そんな娘を心配したヴィンフリートは、愛犬の死をきっかけに、彼女が働くブカレストへ。父の突然の訪問に驚くイネス。ぎくしゃくしながらも何とか数日間を一緒に過ごし、父はドイツに帰って行った。ホッとしたのも束の間、彼女のもとに、<トニ・エルドマン>という別人になった父が現れる。職場、レストラン、パーティー会場──神出鬼没のトニ・エルドマンの行動にイネスのイライラもつのる。しかし、ふたりが衝突すればするほど、ふたりの仲は縮まっていく…。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 最初に書いたのですが、僕自身はユーモアが足りないというか、道化師になれない変なプライドがあるので、トニ・エルドマンを演じるヴィンフリートの道化師ぶりに、中々直視できませんでした。
 わざと入れ歯をして、前歯が出るようにしたり、明らかにカツラだと分かるようなカツラをしたり。

 周りの人も「変な人」と思いながらも、彼を受け入れていて、それを間近で、嫌そうな顔をしながらも、娘のイネスが無理矢理止めることもなく見つめている。

 ヴィンフリートが落ち込む様子は、自分が笑われていたことではなく、あくまでも、娘イネスとうまく関係が築けないという点で、笑われることに抵抗を感じるプライドなど微塵もない姿が、とても強いな、と感じました。

 この作品の中での一番の見せ場は、父の無茶ぶりでイネスがホイットニー・ヒューストンの「The Greatest Love of All」を即興で歌う場面です。
 ヴィンフリートは音楽教師なので、道化だと思っていた彼が上手にピアノを弾けることにもその場の人たちは驚くのですが、最初小さな声で歌い始めたイネスが段々と感情がこもっていき熱唱する姿は、歌の上手さとかではなく、その場にいた人だけでなく、観客にも圧倒的な印象を残します。
 イネスの歌う「The Greatest Love of All」の歌詞は字幕でも出るのですが、一部歌詞を載せたいと思います。

I decided long ago, never to walk in anyone's shadows
ずっと前に私は決めた、決して誰かの真似はしないと
If I fail, if I succeed
失敗しても、成功しても
At least I'll live as I believe
とにかく私は自分の信じるように生きる
No matter what they take from me
たとえ私からどんなものを取り上げても
They can't take away my dignity
私の尊厳は取り上げることはできない

Because the greatest love of all
Is happening to me
なぜならこの世で最も偉大な愛は
私に起こっているから
I found the greatest love of all
Inside of me
私はこの世で最も偉大な愛を
自分の中に見つけた
The greatest love of all
Is easy to achieve
この世で最も偉大な愛を
手に入れるのは簡単なこと
Learning to love yourself
It is the greatest love of all
私自身を愛せるようになること
それこそが最も偉大な愛

 
 この即興で歌うという父の提案に躊躇していたイネスが歌う場面は、最後には熱唱するというイネスの歌いっぷりだけでなく、この歌詞にもとても重要な意味があると思います。
 父とは全く違う生き方をしていて、反発だけでなく、どこか後ろめたさを感じていたイネスが、自分が生きたいように生きて行けているのは、父から沢山の愛をもらっていたからだ、と捉えることが出来ます。
 歌ったあとイネスは出て行ってしまい、ヴィンフリートは悩んでしまうのですが、その後のイネスとヴィンフリートそれぞれの突拍子もない行動は、この歌の場面で少しでも近づくことが出来たことを表しているように思いました。

 「涙腺崩壊」とかそういう感動作品ではないのですが、観終わったあとにじわじわとその良さが伝わってくる作品だと感じました。