映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「セールスマン」

 もう2年も経っていることに驚いているのですが、2年前のアカデミー賞を巡ってこんなニュースがありました。

性的暴行を受けた妻は犯人を赦すのか アカデミー賞を拒否した女優が、暴力を語る。 | ハフポスト

 2017年度のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した「セールスマン」。
 その作品の監督と主演女優がトランプ政権の移民入国拒否を巡って授賞式をボイコットしたというものです。

 ボイコット自体も大きな意味のある行為だと思いますが、それと同時に、カンヌ国際映画祭でも2部門で受賞していることから、とても興味を持っていました。
 その「セールスマン」がAmazonプライムで観られるようになっていたので、早速観てみました。

 


セールスマン(字幕版)

 

youtu.be

 

映画『セールスマン』公式サイト

 

作品データ映画.comより)
監督アスガー・ファルハディ
原題 Forushande
製作年 2016年
製作国 イラン・フランス合作
配給 スターサンズ、ドマ
上映時間 124分
映倫区分 G

 

ストーリー(公式サイトより)
教師のエマッドは妻ラナとともに小さな劇団に所属し、上演を間近に控えたアーサー・ミラー原作の舞台「セールスマンの死」の稽古に忙しい。思いがけないことで住む家を失った夫婦は、劇団仲間が紹介してくれたアパートに移り住むことにする。慌ただしく引っ越し作業を終え、「セールスマンの死」の初日を迎えた夜、事件が起こった。ひと足早く劇場から帰宅したラナが侵入者に襲われたのだ。この事件以来、夫婦の生活は一変した。包帯を巻いた痛々しい姿で帰宅したラナは精神的にもダメージを負い、めっきり口数が少なくなった。一方、エマッドは犯人を捕まえるために「警察に行こう」とラナを説得するが、表沙汰にしたくない彼女は頑なに拒み続ける。 立ち直れないラナと、やり場のない苛立ちを募らせるエマッドの感情はすれ違い、夫婦仲は険悪になっていった。そして犯人は前の住人だった女性と関係がある人物だと確証をつかんだエマッドは、自力で捜し出すことを決意するのだが・・・

 

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★★

感想
 イラン映画で、舞台もイランなので登場人物たちはペルシャ語を話しています。
 ペルシャ語の素養が全く分からないので、字幕の通りの言葉を使っているのかは分からないのですが、上に載せたハフポストの記事では「性的暴行」という直接的な表現が使われているものの、作品中では直接的にその言葉は使われません。

 主人公エマッドの妻ラナは、そこに以前暮らしていた女性と間違われて暴行を受けるのですが、あくまでも以前暮らしていた女性は「ふしだらな行いをしていた」という表現になっていて、売春という言葉は出てきませんし、ラナに関しても頭に受けた傷以外にどんなことをされたのかは分かりません。
 エマッドもラナにはそれ以上聞かないし、ラナも覚えていないと答え、それ以上のことは分かりません。

 多分性的な暴行もされたのだろうということは推測でしかないのですが、真実に迫れば迫るほど、エマッドとラナの関係は崩れていく、という展開に引き込まれていきました。
 真相を知りたいというエマッドの気持ちも抑えることが出来ないけれど、ラナとしては警察にも行きたくないし、もう忘れたい、そのことについて触れられたくないと思っている。

 イランという僕にとっては全く身近ではない国での物語なのですが、そこに描かれているのは、世界のどこでも起きていることです。
 ある日突然、性犯罪に巻き込まれてしまう。
 大切な人が傷つけられ、どうにか犯人を見つけ出して追及したいと思う人がいる一方、公にしたくないし、思い出したくもない被害者。

 #MeTooを持ち出すまでもなく、普遍的なこの問題に関して、とてもシンプルな感想を抱きました。
 それは、性暴力は何もかもを破壊する、ということです。
 被害者の肉体、精神だけでなく、人間関係も破壊し、そして、加害者の肉体、精神、人間関係も破壊する。

 それが、この物語の最初と最後の舞台となる場所とリンクして描かれていて、その崩れ方がゆっくりと、少しずつであるという点でも、とても丁寧に考えられ、作られた作品だと感じました。