映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「奇蹟がくれた数式」

 Amazonプライムで観られる作品を眺めていたら、レビューの評価が高かったので観てみた作品です。
 


奇蹟がくれた数式(字幕版)

 

youtu.be

 

映画「奇蹟がくれた数式」公式サイト


作品データ(映画.comより)
監督 マシュー・ブラウン
原題 The Man Who Knew Infinity
製作年 2015年
製作国 イギリス
配給 KADOKAWA
上映時間 108分
映倫区分 G

 

内容(公式サイトより)
 1914年、イギリス。名門ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジのG・H・ハーディ教授は、当時イギリス植民地のインドから届いた1通の手紙に夢中になる。そこには著名な数学者である彼も驚く“発見”が記されていた。ハーディは差出人の事務員ラマヌジャンを大学に招聘する。ラマヌジャンは妻と離れることに胸を痛めながらも、研究を発表できる喜びに海を渡る。しかし、独学で数学を学んだため、学歴もなく身分も低いことから教授たちに拒絶され、頼りにしていたハーディも公式を証明することしか頭にない。
 妻からの手紙も途絶え、孤独と闘いながらひたすら研究に身を捧げるラマヌジャンは、遂に命にかかわる重い病に倒れてしまう。ラマヌジャンを失うかもしれないと知ったハーディは、初めて彼への友情と尊敬の念に気付き、ラマヌジャンを救うために立ち上がる──。
 第一次世界大戦下の激動の時代に、全てが正反対の二人が、文化と個性の違いに葛藤し、やがてそれを乗り越えて、かけがえのない絆で結ばれていく。歴史に名を残す二人の天才数学者が、今この時代に生きる私たちに、年齢や肌の色、生き方や信じるものが違っても、人は互いを思いやり、愛し合えることを教えてくれる。輝かしくも美しい二人の友情を描く涙の実話。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 観始めてすぐに分かったのは、主演が3月に書いた「LION/ライオン 25年目のただいま」と同じデーヴ・パテール だったことです。
 デーヴ・パテールの出演作品リストを見ていたら、彼のデビュー作である「スラムドッグ$ミリオネア」だけでなく、「チャッピー CHAPPIE」と、割と結構観ていることがわかりました。
 最近見た「LION」もそうだったのですが、今回の作品もデーヴ・パテールがとても上手でした。

 その上手さは何かというと、悲しみをたたえた存在感です。
 「LION」では、とりつかれたように自分の故郷を探し求めながらも、育ててくれた家族を裏切る行為なのではないかという苦しみや悲しみを、今回の作品では、1914年でイギリス領だったインドから1人イギリスに渡り、周りに殆どインド出身者どころか非白人がいない環境で、差別や偏見にさらされながら、何故自分のことを認めないのかと苦しみ、耐える様子が印象的でした。

 彼が演じるシュリニヴァーサ・ラマヌジャンは敬虔なヒンドゥー教徒で厳格な菜食主義者だったこともあり、今では日本でもビーガン料理をアピールするお店もありますが(というか伝統的には日本は菜食主義に近かったので戻ったとも言えますが)、第一次世界大戦下のイギリスはドイツによる通商破壊もあり、そのような食材は確保が困難で、こうしたことが原因で衰弱していく様子が描かれています。

 インド人という「見た目」と「出身地」による差別や偏見だけでなく、食べものが合わないという生活の一番基本的な部分が整っていなかったことは本当に大変な苦しみだったと思います。

 そんな中でも彼は様々な数学的業績を残し(数学は無知すぎるのでどのくらいすごいことなのかは理解出来ませんが)、現存する最も古い科学学会である王立協会(ロイヤル・ソサエティ)のフェロー(終身会員資格)になっています。
 数学的な業績は分かりませんが、ロイヤル・ソサエティのフェローのすごさは少しは知っているつもりで、歴代の有名なフェローだけを見ても分かります。
 アイザック・ニュートンチャールズ・ダーウィンアルベルト・アインシュタインスティーヴン・ホーキング…。
 合計8000人以上の今までのフェロー中、280人以上がノーベル賞を受賞しています。

 とにかく、そんなにすごい人なのに僕はこのシュリニヴァーサ・ラマヌジャンという人のことを、この映画を観るまで全く知りませんでした。
 しかも、わずか32歳で亡くなっているにも関わらず、こんなにも多くの業績を残していることに、ただただ圧倒されます。

 が、業績に圧倒されるものの、この作品で描かれるのは、ラマヌジャンと彼の妻、彼の共同研究者であり、ケンブリッジ大学に招聘したハーディ教授との関係です。
 育った環境や、学んで来た経緯が違うことで、ラマヌジャンとハーディは度々衝突し、共同研究者でありながらも、中々相手のことを受け入れようとしないハーディ。
 息子が1日でも早く帰ってきて欲しいと願うばかりにラマヌジャンと彼の妻の手紙を隠す母。
 そのことを知らずに、悲しみくれるラマヌジャンとその妻。

 業績もさることながら、この一対一の人間関係がどう動いていくのかという点を中心に描いていたことで、半ば認めつつも中々「異質な他者」を認められない人間や、誤解などで関係が崩れてしまうことなど、普遍的な人間関係について描かれていると感じました。