映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「悩ましき男たちの肖像」

 Amazonで何気なく観た作品です。
 最初表示された時は、表紙の卑猥というか安っぽいエロさを出しているタイトルロゴのデザインと作品内容のあらすじから全く観る気が起きませんでした。
 が、レビューの内容を読んでベタ褒めしている人がいたことと、映画にしては短い時間なので、まぁ、ダメだったらダメで良いか、と思って観てみました。
 結論から書いておくと、観て良かったです。
 


悩ましき男たちの肖像(字幕版)

 

作品データ映画.comより)
監督 サイキ・ペーテル
原題 Intim fejlövés
製作年 2009年
製作国 ハンガリー
上映時間 73分

内容Amazonより)
あのことが頭から離れない...。女たちは知らないのだ、男の愛の妄想を、あるいは妄想の愛を―。ナイトクラブに居合わせた4人の男。互いに見知らぬ者同士の共通点は、ハードな一日を体験したことと、心を占めるセックスの悩み。哀しくもおかしい男の性を描き出すエロティック・ドラマ!

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 原題は「Intim fejlövés」。
 ハンガリー語で、翻訳を調べてみたら「Intim」が「親しい」、「fejlövés」が「ヘッドショット」(銃などで頭を打ち抜かれること)ということだそうで、「Intim fejlövés」は「親密な人からのヘッドショット」といった感じでしょうか。

 なので、Amazonの紹介文にあるような「心を占めるセックスの悩み」というのはちょっと違うと思います。
 確かに、同じ時にナイトクラブ(ストリップ)にいた男性4人にそれぞれ全く違う性に関する「頭を打ち抜かれるような出来事」があって、その1人ひとりの出来事を描いているのですが、「セックス」に悩んでいるのではなく、もっと大きな意味での性での「頭を打ち抜かれるような出来事」を描いています。

 1人は、パートナーが乳房切除手術をしてからセックスが出来なくなり、アダルトチャットを始め、その相手とセックスをしようとすることで性欲を満たそうとする中年男性。
 パートナーが彼に自分とセックスをするか別れるか迫るけれど、彼はどうしても彼女に触れることが出来ないし、彼女が胸にシリコンを入れたいと言っても受け入れることが出来ない。

 あるいは、結婚前夜に「言わなければならないことがある」と実はトランスジェンダーだと打ち明けられる男性。
 彼は露骨にホモフォビア(同性愛嫌悪)を表していたので、彼女も中々伝えることが出来なかったのもわかるし、伝えられた彼は「3年間も俺は男とセックスしていたのか」と吐き、暴れる。

 もう1人は、自分のペニスが「病気なのでは」と思うほど「小さい」とコンプレックスを抱き、童貞の27歳の青年。
 そんな彼を受け入れようとする女性が現れたのに、結局彼は彼女の「小さいのもかわいいよ」という言葉に傷つき、拒否してしまう。

 そして、妻が同僚と不倫をしていたことを突きとめ、2人がセックスしようとしているところに乱入したら、実は自分が妻をセックスで満足させたことが1度としてなかったということが分かり、死のうとまでする男性。

 確かに「性」という意味では「セックス」についての悩みなのかもしれませんが、「セックス」と書いてしまうと、性行為そのものだけを切り取ってしまうのではないかと思います。
 けれど、この作品で描かれているのは、もっと広い意味での性をめぐる悩みや現実です。

 女性だと思って(実際女性なのですが)付き合ってきて、セックスもしていた相手が実は「元男性」だとわかった時の「頭を打ち抜かれる」ような思い、あるいは、結婚して10年以上経っているのに妻を1度も満足させたことがなかったということがわかった時の「頭を打ち抜かれる」ような思い。
 また、自分のペニスが小さいのではないか、と悩む青年と、パートナーが病気になり大きく変わった彼女の身体を受け入れられない配偶者。

 実際に体験したことがあるかどうかは別として、ここに出てくる4人の男性に起きた「頭を打ち抜かれるような出来事」はどれも、僕は「あり得る」と感じました。
 初めてセックスするまでは、自分の身体、特にペニスがおかしなところがあるんじゃないか、心はもちろんのこと、身体を受け入れてもらえるのか不安でしたし、パートナーが手術などで大きく身体を変えたら、本人は当然のこと、自分も受け入れるのが難しいと思います。
 触れるのが怖いでしょうし、さらに身体を変えるような手術をしようとするパートナーを止める事はしませんが、戸惑いはすると思います。

 表紙と紹介文はこの作品の魅力をかなり損なっていると思いますが、改めて、生とは性であるということを考えさせられる良い作品でした。