映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

中島らも『今夜、すべてのバーで』

 前から「読みたいなぁ」と思っていて、出版が結構前の本なので古書店に寄る度に探していたのですが、どこにも売っておらずそのままだったのですが(近所に図書館もなく)、先日、違う本を購入しようと書籍サイトを開いたら、パッとこの本が表示されたので、これは今読むしかない、ということでその場で購入し読んでみました。 

 


今夜、すべてのバーで (講談社文庫)

 

『今夜、すベてのバーで』(中島 らも):講談社文庫|講談社BOOK倶楽部

 
内容Amazonより)
薄紫の香腺液の結晶を、澄んだ水に落とす。甘酸っぱく、すがすがしい香りがひろがり、それを一口ふくむと、口の中で冷たい玉がはじけるような・・・・・・。アルコールにとりつかれた男・小島容(いるる)が往き来する、幻覚の世界と妙に覚めた日常そして周囲の個性的な人々を描いた傑作長篇小説。吉川英治文学新人賞受賞作。

勝手に五段階評価
★★★★★

感想
 著者の中島らもさんのことは全く知らず、書いたものも、どういった人なのかも知りません。
 けれど、お酒にまつわるコラムなどでこの作品が触れられているのを度々目にしたことがあり、それ以来いつか読もうと思っていました。
 と、同時に、書かれている内容は勝手にお酒にまつわるエッセイなのだろうと思っていたのですが、読んで分かったのはエッセイではなく、小説だということです。

 エッセイではなく小説ですが、その内容はどうやら「私小説」と呼べるもので、著者の体験がふんだんに盛り込まれているようです。
 毎日毎日大量の酒を飲むことで生きてきた30歳過ぎの主人公小島が緊急入院することに。
 入院の準備があるからと一旦病院を離れたと思ったら近所の公園で最後の一杯とでも言うかのようにカップ酒をあおる。

 基本的には主人公小島が入院している際の出来事が描かれるのですが、僕自身も依存体質だったり(お酒は少しずつ減らせるようになってきました)、その依存体質の根本的な問題だったり(これは人によって本当に様々な理由・原因があるので、だからこそ依存症の治療は難しい)が、描かれている出来事は全く経験のしたことのないことばかりであるものの、その中心部にある人生観というか、人生への諦めというか、死や生への認識だとかがグサグサと突き刺されるかのようでした。

 物語の展開も見事で、最後の展開はもう、見事としか言いようがない展開です。
 酒から、何かから依存することでしか生きることが出来ず、しかも死というものを遠ざけるよりはむしろ近づくことさえ望んでいた小島に突きつけられる現実とそこでの葛藤というか闘い。
 ラストは何となくハッピーではないけれどうまくいきそうな感じにも読めますが、そんなにうまくいかないからこそ入院し、こういう経験をしているということを振り返させるという意味でも、本当に見事な作品だと思います。