映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

穂村弘『世界音痴』

 先日書いた荻上チキ、ヨシタケシンスケ『みらいめがね それでは息がつまるので』でチキさんが触れていたので読んでみた本です。
 穂村さんの本は去年『本当は違うんだ日記』を読んだのが初めてだったのですが、それが面白かったので、この本もきっと面白いに違いないと思い、読んでみました。

 


世界音痴〔文庫〕 (小学館文庫)

 

世界音痴〔小学館文庫〕 | 小学館

 

内容小学館より)
人気歌人は究極のダメ男?爆笑と落涙の告白
末期的日本国に生きる歌人穂村弘(独身、39歳、ひとりっこ、親と同居、総務課長代理)。雪道で転びそうになった彼女の手を放してしまい、夜中にベッドの中で菓子パンやチョコレートバーをむさぼり食い、ネットで昔の恋人の名前を検索し、飲み会や社員旅行で緊張しつつ、青汁とサプリメント自己啓発本で「素敵な人」を目指す日々。<今の私は、人間が自分かわいさを極限まで突き詰めるとどうなるのか、自分自身を使って人体実験をしているようなものだと思う。本書はその報告書である>世界と「自然」に触れあえない現代人の姿を赤裸々かつ自虐的に描く、爆笑そして落涙の告白的エッセイ。

勝手に五段階評価
★★★★☆

感想
 読んでみようと思った理由はこの本のタイトルが『世界音痴』ということも大きな理由です。
 「世界音痴」。
 なんてすごい言葉なんだろうと思います。
 発行元の小学館の作品紹介ページには「独身、39歳、ひとりっこ、親と同居、総務課長代理」とか書かれていますが、僕は「独身(バツイチ)、35歳、うつ病不眠症持ち、安月給、平社員」みたいな感じです。

 僕は30歳を過ぎるまで自分が「生きるのが苦手である」ということにさえ気付いていませんでした。
 みんな生きるのは大変なんだよ!と言われればそうかもしれませんが、僕は自分がHSPのことを知り、自分がHSPだということが分かったのは30歳を過ぎてからです。
 それまでは元配偶者から「発達障がいなんじゃない?」とか言われ、「そうか、僕は発達障がいなのか」と思いながら過ごしてきました。

 だからというか仕事上でも必要な知識だったので、発達障がいのことを沢山調べてきたけれど、なんだか違う。
 その後に知ったのがHSPというものでした。
 HSPということを知り、自分がHSPだということがわかった時、僕は初めて自分が生き辛いということを思っていること自体が他の人とは違う、ということを初めて知りました。
 みんな、生きづらい中でも生きてるんじゃないの?と。
 でも、どうやら違ったようです。

 本の内容から大分それてしまいましたが、この本に書かれている内容は、他の人からは「えっ!?」って思われるかもしれないけれど、それでも生きているという穂村さんの姿です。
 血糖値が高いので糖を控えているのにもかかわらずあんパンを買ってしまい、周りの部分だけをちょこちょこと食べて、残った中心部の部分をポケットに入れている。

 10年という長く付き合っていた恋人がいたけれど、「結婚」するわけでもなく、むしろ別れてしまって、周りの同世代の友人・知人たちが結婚し子どもを育てているにもかかわらず、相変わらず実家で母親に「(そのお味噌汁)熱いよ」と言われている39歳の穂村さん。

 そもそも僕自身も、明治生まれの祖父母がいて(同世代だと大正生まれはいても明治は聞いたことがない)、10人きょうだいの末っ子で高齢出産で僕を産んだという母の元に生まれてきたこと自体、「普通じゃない」状態で生まれてきたにもかかわらず、特にこの春から企業で働き始めたことで「普通」とか「世間一般」というものと比べてしまう自分がいました。

 「いました」というとあたかも、今はもう振り切れたのようですが、全く振り切れておらず、日々モヤモヤとした日々を過ごしています。
 そんなモヤモヤしながら過ごしているのが自分だけではないんだ、ということを思わせてくれるのがこの本には書かれていました。

 が、残念なのは前半と後半の雰囲気が全く違うことです。
 「なぜ?」と戸惑っていたのですが、あとがきを読んで分かったのは、前半は日経新聞で書かれていた連載で、後半に収められているのは違うところに書かれたものだということです。
 前半部分がもの凄く良かったからこそ、後半との違いが際立ちすぎてとても残念でした。
 それでも、荻上チキさんが勧めていた理由が分かり、僕自身もこの文章を読んでいるときだけは「まぁ、やっていけるかもな」と思えるのが良かったです。