映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

樹木希林『一切なりゆき』

 樹木希林さんが亡くなったという報道を聞いた時、本当に衝撃的でした。
 「万引き家族」を観たばかりでしたし、たしか『日日是好日』公開中でのことで、希林さんが「がん」であることは知っていましたが、なんだかんだで作品には出演しているし、がんは今では日本人の半分はかかる病気なので、このまま生き続けるのだと勝手に思っていました。
 なので、希林さんが亡くなったということは本当に衝撃的でした。
 そして、そんな中ラジオで聞いたエピソードに俳優としてだけでなく、一人の人間としてとても興味を持ちました。

www.tbsradio.jp


 ジャーナリストの青木理さんが生前に死刑制度反対に関する集まりに行ったら、そこに樹木希林さんがいて、タバコを吸っている青木さんに話しかけてきたというエピソードなのですが、そこで希林さんの思想というか、いろんなものを知り考えている様子が伝わってきて、生前どんな人だったのだろうかととても興味を持ちました。

 そんな時に出版されたのが今回の本です。
 新書なのでそこまで高くありませんが、ちょうど姫野カオルコさんの『彼女は頭が悪いから』と同じように電子書籍だと50%ポイント還元セール(実質半額)キャンペーンの対象になっていたので読んでみました。


一切なりゆき 樹木希林のことば (文春新書)

 

文春新書『一切なりゆき 樹木希林のことば』樹木希林 | 新書 - 文藝春秋BOOKS


作品紹介文藝春秋より)
2018年9月15日、女優の樹木希林さんが永眠されました。樹木さんを回顧するときに思い出すことは人それぞれです。古くは、テレビドラマ『寺内貫太郎一家』で「ジュリー~」と身悶えるお婆ちゃんの暴れっぷりや、連続テレビ小説『はね駒』で演じた貞女のような母親役、「美しい方はより美しく、そうでない方はそれなりに……」というテレビCMでのとぼけた姿もいまだに強く印象に残っています。近年では、『わが母の記』や『万引き家族』などで見せた融通無碍な演技は、瞠目に値するものでした。まさに平成の名女優と言えるでしょう。
樹木さんは活字において、数多くのことばを遺しました。語り口は平明で、いつもユーモアを添えることを忘れないのですが、じつはとても深い。彼女の語ることが説得力をもって私たちに迫ってくるのは、浮いたような借り物は一つもないからで、それぞれのことばが樹木さんの生き方そのものであったからではないでしょうか。本人は意識しなくとも、警句や名言の山を築いているのです。
それは希林流生き方のエッセンスでもあります。表紙に使用したなんとも心が和むお顔写真とともに、噛むほどに心に沁みる樹木さんのことばを玩味していただければ幸いです。

勝手に五段階評価
★★★★★

感想
 最初に書いたような例えば死刑制度に関するような政治的な発言は一切載ってはいませんが、希林さんがインタビューなどで語った短いけれど印象的な言葉が沢山収められています。
 自分で付箋をつけてチェックした部分を今回載せようとしたら、あまりにも多くなってしまい、かなり絞りましたが、それでも多くなってしまいました。
 先日書いたヤマザキマリさんの『ヴィオラ母さん』と同じように、今の僕、これからの僕の生き方を考えるヒントが沢山詰まった内容でした。

 まずは、どういう生活を送りたいのか、ということについて。

 モノを持たない、買わないという生活は、いいですよ。部屋がすっきりして、掃除も簡単。汚れちゃったけど、いまは忙しいから掃除ができない、どうしよう……なんていうストレスもない。暮らしがシンプルだと、気持ちもいつもせいせいとしていられます。 

  

 着飾っても甲斐がないし、光りものも興味がない。それより住むところを気持ちよくしたいなあって。
 若い頃は安物買いの銭失いだったんですよ。でも、モノがあるとモノに追いかけられます。持たなければどれだけ頭がスッキリするか。片づけをする時間もあっという間。

 
 僕の実家はモノが多いです。
 父は何でも自分でやってみようとする人で、それが引き継がれたからか、兄はパソコンを自作しますし、僕も自分であらゆることを自分でしようとします。
 なので、毎日使うわけでもない、例えば、引越の時にちょっと必要になった工具などがないか実家に行って聞くと「あるよ」と出てきたりします。
 だから、実家にはモノが沢山あって、それだけでなく、父は読書家なので、本も大量にあります。
 僕もそれを引き継いでしまったようで、モノを沢山持ってしまっていて、去年、家から追い出されたこと、そしてまたそこから引っ越したことで大分モノが減りましたが、今でもモノが多いな、と感じることがあります。
 ミニマリストになりたいわけではありませんが、なるべくモノが少ない生活をしたいな、と思っています。
 『ヴィオラ母さん』のリョウコさん同様、『暮しの手帖』のようなシンプルで一つのモノを大切に使い続ける生活を送りたいと思っています。
 希林さんも「若い頃は安物買いの銭失いだった」そうなので、僕もそういう生活に少しずつシフトしていきたいなと思っています。
 モノが一つ増えるということは、執着するものが一つ増えるということでもあるので、一つでもモノが減れば、執着するものが減り、生きやすくなるのかな、とも思います。

 うつ病になって後悔したことはないのですが、最近わりとしんどい日々を送っていて、勇気づけられたのがこの言葉です。
 

 人生なんて自分の思い描いた通りにならなくて当たり前。私自身は、人生を嘆いたり、幸せについておおげさに考えることもないんです。いつも「人生、上出来だわ」と思っていて、物事がうまくいかないときは「自分が未熟だったのよ」でおしまい。
 こんなはずでは……というのは、自分が目指していたもの、思い描いていた幸せとは違うから生まれる感情ですよね。でも、その目標が、自分が本当に望んでいるものなのか。他の人の価値観だったり、誰かの人生と比べてただうらやんでいるだけなのではないか。一度、自分を見つめ直してみるといいかもしれませんね。
 お金や地位や名声もなくて、傍からは地味でつまらない人生に見えたとしても、本人が本当に好きなことができていて「ああ、幸せだなあ」と思っていれば、その人の人生はキラキラ輝いていますよ。

 
 今いる(特に仕事)環境ではどうしても周りにいる誰かの人生と比べてしまっています。
 そんなことしても何にもならないことは分かっていても、どうしてもしてしまってしんどくなってしまうときがある。
 もう一度ゆっくり、自分が何を望んでいるのか、お金も地位も名声も欲していないので、「人生、上出来だわ」と思えるような生き方はどういう生き方なのか、改めて考えているところです。
 

「もっと、もっと」という気持ちをなくすのです。「こんなはずではなかった」「もっとこうなるべきだ」という思いを一切なくす。自分を俯瞰して、こうしていられるのは大変ありがたいことだ、本来ありえないことだ」と思うと、余分な要求がなくなり、すーっと楽になります。もちろん人との比較はしません。
 これはやはり、病気になってから得た心境でしょうね。いつ死ぬかわからない。諦めるというのではなく、こういう状態でもここまで生きて、上出来、上出来。そのうえ、素敵な作品に声をかけていただけるのですから、本当に幸せです。


 ここまでの心境には至れていませんが、振り返ってみれば、自分もいつ死ぬか分からない状態です。
 電車に飛び込んだというニュースを見ればそれが自分と重なり、他人事とはとても思えません。
 「こういう状態でもここまで生きて、上出来」という気持ちになれば、確かに楽になれると思います。
 では、そうはいってもそういう気持ちにどうしたらなれるか。

 どうやったら他人の価値観に振り回されないか?「自立すること」じゃないでしょうか。自分はどうしたいか、何をするべきか、とにかく自分の頭で考えて自分で動く。時に人に頼るのもいいかもしれないけれど、誰にも助けを求められないときにどうするかくらいは考えておかないと。
 もっと言えば、その状況をおもしろがれるようになるといいですね。幸せというのは「常にあるもの」ではなくて「自分で見つけるもの」。何でもない日常や、とるに足らないように思える人生も、おもしろがってみると、そこに幸せが見つけられるような気がするんです。

 
 自分はどうしたいか、何をするべきか。
 自分がどうしたいかということはある程度分かっていても、社会の中にそれを受け止めてくれる場があれば良いのですが、そうではないことがあるので辛いわけで、それでもその状況をおもしろがれるというのは中々大変だと思います。
 だからといって、それは希林さんだから言えることで、僕には関係が無いということを言えないのは、「生きることへのしんどさ」も述べているからです。
 

 私は並外れて執着心が無い人間のようです。夫についても、娘についても、自分自身についても、まったく執着するところがありません。
 なぜ自分はこんな人聞になってしまったのだろう。そう考えるとき、思い当たるのは、自分の心の内にある「生さることへのしんどさ」。それは子どもの頃からずっと、私の中にありました。しんどいと思いながら、ここまで生きてきたんです。 


 しんどいと思いながらも生きてきて、その中で自分が置かれている状況をおもしろがる。
 そして、自分がやりたいこと、するべきことを見つけ、一つ一つこなしていく。
 自分がやりたいことを社会がそのまますぐに受け入れてくれなくても、するべきことは分かっているのだから、まずはそれをやっていこうと思いました。

 最後には、葬儀で希林さんの娘である内田也哉子さんが述べた言葉も載っていて、そこには希林さんの言葉が載っていました  

「おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」

 
 中々難しいことではありますが、僕もこの言葉に沿って生きていきたいなと思います。