映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

崔実『ジニのパズル』

 新聞の書評で読み、積ん読していた本をようやく読みました。

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ジニのパズル (講談社文庫)

 

『ジニのパズル』(崔 実)|講談社BOOK倶楽部


内容紹介講談社BOOK倶楽部より)
「日本には、私のような日本生まれの韓国人が通える学校が、二種類あるんだ」――。1998年、テポドンが発射された翌日、チマ・チョゴリ姿で町を歩いていたジニは、警察を名乗る男たちに取り囲まれ……。二つの言語の間で必死に生き抜いた少女が、たった一人で起こした“革命”の物語。全選考委員の絶賛により第59回群像新人文学賞を受賞した、若き才能の圧倒的デビュー作!

勝手に五段階評価
★★★★★

感想
 著者が自分とほぼ同世代だからでしょうか、それとも出てくる場所が池袋だったり、十条だったりと自分に親近感を覚える場所だからでしょうか、心動かされる作品でした。

 主人公は、僕と同じ年代の女の子ジニ。
 小学校は地元の学校に通っていたけれど、中学から朝鮮学校に通い始める在日韓国朝鮮人です。

 僕が、「在日(ざいにち)」の存在というか人と出会ったのは大学に入ってからです。
 高校で3年間僕の後ろの席に座っていたYの両親は中国出身者でしたが(そのことを本人がいない場で蔑むような言葉を吐くクズもいた)、いわゆる「在日」の人と出会ったのは大学に入ってからで、僕が入った学科は一学年40数人と、まるで高校の1クラス分くらいしかいなかったので、そこに1人在日の同級生がいました。
 僕はそこまで親しかったとは言えませんが、大学に入って初めて「自分の本当の名前を名乗れるようになった」と言っていたことを今でも鮮明に覚えています。
 僕が通っていた大学は(今でもそうであって欲しいけど)障害を持っている教員や総長がいたり、いろんな人がいることが「普通」でした(兵役を終えた超マッチョな韓国出身の後輩や、何歳かわからない立派な髭を生やしたおじいさんの後輩がいたり)。

 僕は大学に入るまで「自分の本当の名前を名乗れない人がいる」ということを知りませんでした。
 そして、まだ18だったにもかかわらず、彼女は結婚するとしたら在日などの朝鮮半島出身者じゃないといけないと親から言われていると言うことに悩んでいること、そんな現実があることを初めて知り、僕は何も言えませんでした。

 その後、僕は結婚し、元配偶者の姓に変えたことから、「自分の本当の名前を名乗れない人」に実際になったわけですが、その苦しさは本当につらいものでした。
 国籍の違いとかももちろんありませんが、「ありのまま」あるいは「これが本当の自分」だという姿を見せられない苦しみや辛さ。
 さらに、この作品では、中学校、高校とアイデンティティが形成される時期にそれらを体験すること、また、時代背景として、「テポドン」が発射されるなどの割と今と近い「嫌韓」感情が湧き始めていたこととを絡めて描かれています。

 同世代だから深く刺さってきたのかも知れませんが、同じ時代を生きてきたからこそ、そして、「本当の自分でいることが許されない」という経験をしたからこそ、とても優れた作品だと感じました。