映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

枡野浩一『結婚失格』

 いつも聞いている歌人の桝野浩一さんと漫画家の古泉智浩さんのPodcast「本と雑談ラジオ」、桝野さんは離婚歴があり、子どもにもう20年近く会えていないことを度々話しているのですが、本にもなっていることを話していたので、僕は毎月とはいかないもの会えているものの、なんだか近いものを感じたので、手に取って読んでみました。

 


結婚失格 (講談社文庫)

 

『結婚失格』(枡野 浩一):講談社文庫|講談社BOOK倶楽部

内容講談社BOOK倶楽部より)
男にとって別れはいつも「寝耳に水」。家の鍵は取り換えられ、妻の雇った弁護士から身に覚えのない非難の文書が。親権をめぐる裁判所での話し合いは、想像を絶する冷酷な展開に……。子どもたちに会いたい! 男女の温度差が激しいとされる「離婚」を男の視点で描き、賛否両論を呼んだ衝撃の実録小説。

勝手に五段階評価
★★★★☆

感想
 離婚から時間も経ち(法律婚では約4年)、裁判所での内縁関係(事実婚)解消の確認から1年半ほど、他の内容に関する調停も半年ほど前に全て終わり、子どもたちとも会おうと思えばある程度自由に会うことが出来る今だからこそ読めましたが、調停真っ最中に読んでいたら、苦しさが増すような内容でした。
 この作品は速水という人物が主人公となっていて、職業も全く違いますが、桝野さんを反映していて、その中で速水が調停で発する言葉にドキリとしました。

「え、次回は二月なんですか?あの、それじゃあ、このまま子供たちには会えないままなんですか?今の時点でもう二ヵ月ずっと会ってないんですけど!」 

 
 同じ言葉ではありませんが、僕も同じようなことを言いました。
 主人公速水は、子どもたちの保育園の送迎をしていたので、僕のように主夫に近い立場だったことが描かれています。
 けれど、突然子どもたちから引き離されてしまう。
 これは本当に苦しい出来事でした。
 昨日までは保育園に送迎し、習い事に付き添い、一緒にお風呂に入って、食事を一緒に取っていたにもかかわらず、突然いつ会えるかわからなくなる。
 この苦しみ。

 本に書いてある順番とは前後しますが、松尾スズキさんの言葉から速水が発する言葉がとても響いていきました。

子供を作るなんて。ハンパな夢、みるなよ!潔く滅びろよ!松尾スズキの覚悟こそが圧倒的に正しく、ハンパな夢をみていた自分は完壁にまちがっていたのではないかという自責の念がみるみる全身に満ちていく。

 
 僕の場合は、「子供」ではなく、「家族」です。
 「家族を作るなんて。半端な夢、みるなよ!潔く滅びろよ!」。
 たまに書いていますが、僕は兄ともの凄く仲が悪いこともあり、そして、その兄の振る舞いを容認する母や、父の今だったら確実に児童相談所に通告されるようなことをされていた今でも心の奥で許せないことがあり、一刻も早くこの家から抜け出したい、抜け出すだけでなく、自分の「家族」を持ちたい、という気持ちがありました。
 その結果として、周囲からの圧倒的な反対を押し切って、22歳での結婚に至ったわけですが、今になって思うと、そんな自分の家族を「作るなんて。半端な夢、みるなよ!」ということだったのかな、とも思います。

 それでも最後に、すごく希望を感じさせられたのがこの文章です。
 

とにかくだれかに好かれるのは幸せなことだ、それだけは確かだと、だれかが耳もとでつぶやいた気がした。

 
 好いてくれているのは男性で速水はゲイではないので、その気持ちに応えることはできないのだけれど、やっぱり誰かから好かれるのはとても幸せなことだと。
 すごく希望があるというか、幸せだな、と感じます。
 と同時に、僕は誰かから好かれてもいないので、また悲しみが深くなるのでした。
 誰かから好かれるって本当にそれだけで生きていける気がします。