映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

俵万智『あなたと読む恋の歌百首』

 先日書いた坂崎千春さんの『片想いさん』では、坂崎さんが読んで(特に恋愛面で)影響を受けた本がたくさん紹介されていました。
枡野浩一さんの『結婚失格』も同じ形式でしたが、枡野さんが坂崎さんのこの本に影響されたのかもしれません。)
 その中で、紹介されていたのがこの本です。
 詩だけではなく、短歌も最近詠むようになったので(Instagramに書いてます)、読んでみました。 

 


あなたと読む恋の歌百首 (文春文庫)

 

文春文庫『あなたと読む恋の歌百首』俵 万智 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS

 

内容文藝春秋より)
何度も読み返したくなる宝石箱のような一冊
俵万智が選ぶ百首の恋の短歌。幸せいっぱいの恋、許されない恋……それぞれに俵流解釈が添えられたユニークな短歌評かつ恋愛手引書

勝手に五段階評価
★★★★☆

感想
 元々が新聞での連載で、その連載も、そしてそれを単行本として出版したのも20年以上前のものになります。
 故人も現役も含めた歌人の恋愛に関する(と俵万智さんが考えた)短歌が載っていて、それにまだ30代前半だった俵さんが解読するというものになっています。

 俵さんは今は子どももいらっしゃいますが、まだ恋愛に力を注げる時期というか、ある程度恋愛をしてきたという年齢や経験から書かれています。
 僕は22歳で結婚し、そこから10年以上恋愛というものから遠ざかっていたので、この本の時点での俵さんと同じような年齢ですが、恋愛経験では全く違っていて、俵さんの恋愛経験から紡ぎだされる解題がとても興味深かったとともにうらやましさを感じました。
 なんというか、(他人から見れば、僕も子どもが3人いるわけですが)人生経験が豊かそうで良いな、と。
 それを感じる文章を載せてみます。

 人間は、一致していないからこそ、その隙間を埋めようと努力もするし、目には見えない自分の心を、言葉で伝えようともする。が、悲しいことに、それが百パーセント伝わるということはほとんどない。時には、ささいな行き違いからケンカになったり、ちょっとした誤解が、とりかえしのつかない事態を招くことさえある。


 「悲しいことに、それが百パーセント伝わるということはほとんどない。」という部分が自分でも実感するところでもあり、だからこそ伝えようと努力するのだけれど、それが諦念でもなくて、30数年生きてきた経験が詰まった一文だと感じました。
 まぁ、僕の場合もそれによって「とりかえしのつかない事態」になった訳ですが…。

 紹介されていた100首の中で一番良いなと思った歌を載せてみます。
 

うら恋しきやかに恋とならぬまに別れて遠きさまぎまの人


 これは誰の歌かというと若山牧水の歌です。
 他の歌を紹介する中で度々俵さんが触れていることですが、そもそも「出会う」ことがものすごく貴重なもので、さらにその相手のことを好きになっても、色んな事情があって諦めたりすれ違ってしまうことがある。
 若山牧水のこの歌はそれを端的に現していて、とても心にしみてきました。

 同じように誰かとの「出会い」について、俵さんの言葉がとても印象的でした。
 

出会いを、偶然のままに終わらせるか、それを必然のものにまで育ててゆくか。一番悲しいのは、大切な出会いに、自分からブレーキをかけてしまうことだろう。


 思わず、うーん、と唸ってしまいました。
 この文章は白蓮の歌を紹介する中で出てくるのですが、ものすごく大きく言えば人類が始まった中で考えても、一人の人間はせいぜい100年しか生きることが出来なくて、その中で人と出会う訳です。
 その「偶然」の「出会いを、偶然のままに終わらせ」て良いのか、「自分からブレーキをかけてしま」ってはいないか、と。
 元配偶者に対しては名前を見たり、見かけたりするとPTSDの症状が出るくらいで別になんとも思っていないのですが、それでも、「離婚」したことに関しては自分自身でもの凄く罪悪感を感じていて、「あぁ、この人のこと好きだな」と思っても、ブレーキをかけている自分がいます。

 罪悪感がいつ解けるのか分かりませんが、まぁ、それに付き合いながらも、そもそも誰かのことを好きになれること自体がとても幸せなことなのかも知れないなと思いました。