東直子『春原さんのリコーダー』
僕は歌人の穂村弘さんが好きで(天才だと思ってる)いくつかの本を読んで来ましたが(『本当は違うんだ日記』、『世界音痴』、『求愛瞳孔反射』、『現実入門―ほんとにみんなこんなことを?』)、その中に東直子さんとの共著『回転ドアは、順番に』がありました。
『回転ドアは、順番に』では、穂村さん、東さんがどの文章を書いているのか分からなかったものの、良かったので、東さんの本を読んでみたいなぁ、と思っていたら、タイミング良く、第一歌集が文庫化されたというのが、この『春原さんのリコーダー』になります。
春原さんのリコーダー (ちくま文庫)
内容(筑摩書房より)
人気歌人で、作家としても活躍している東直子のデビュー歌集。代表歌「廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て」ほか、シンプルな言葉ながら一筋縄ではいかない独特の世界観が広がる347首。小林恭二、穂村弘、高野公彦らによる単行本刊行時の栞文に、新たに花山周子による解説、川上弘美との対談も収録。
勝手に五段階評価
★★★★☆
感想
第一歌集ということもあるのか、載っている作品・短歌はそれほど多くはなく、解説というか、初版時の推薦文などがかなりの部分を占めています。
なので、ほぼ東さんの短歌で構成されていると思って読みはじめると戸惑うかも知れません。
けれど、様々な人(その中には穂村さんも)が語る東さんの短歌について、いかに優れているか、いかにその人にとって重要なのかが伝わって来ました。
とりわけ、みんなが触れずにはいられない作品である「廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て」は、それらの解説文を読んでいるとそのすごさが伝わってきたのですが、僕が一番良かったと思った作品は誰も触れられていませんでした。
なので、僕が一番良かったと思う作品を載せてみたいと思います。
「そら豆って」いいかけたままそのまんまさよならしたの さよならしたの
僕の中で一番残ったのはこの作品です。
もちろん「廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て」のすごさというか優れたところも分かるのですが、解説を必要としないストレートに響く言葉が僕は必要だと思っていて、言葉に「意味」とかを必要とさせない言葉が大切だと思っています。
だからこそ、この作品、「『そら豆って』いいかけたままそのまんまさよならしたの さよならしたの」はそういう言葉の「意味」とかが必要がなく、ストレートに響いてきたのでとても良いな、と。
人によっては、この作品を恋愛の歌とも読めるでしょうし(今読むとそう思います)、でも、僕はなんだか子どもたちと過ごした日を思い出しました。
「『そら豆って』いいかけたままそのまんまさよならしたの さよならしたの」。
僕はそら豆が好きで、その季節になって八百屋さんに並びはじめると買い、よくゆでていました。
「そら豆ってさぁ」とか言いながらそのまま終わってしまった子どもたちとの生活。
なんだか、僕には2年前には当たり前のこととしてあった子どもとの「日常」が目の前に浮かんできました。