映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「いぬやしき」

 去年公開されたばかりですが、Amazonプライムで見られるようになっていたので見てみました。
 原作は漫画(奥浩哉『いぬやしき』)で最初の数巻は読んだことがあるのですが、あまり興味が持てなかったのですが、去年ラジオ番組に主演の木梨憲武さんが出てこの映画を語っているのを聞いたり、奥浩哉さんが(いぬやしきについてではありませんでしたが)ラジオ番組で自分の作品について語っているのを聞いたこともあり、見てみようと思いました。

 


いぬやしき

 

youtu.be

 

作品データ映画.comより)
監督 佐藤信
製作年 2018年
製作国 日本
配給 東宝
上映時間 127分
映倫区分 G

あらすじシネマトゥデイより)
定年を控えるうだつが上がらない会社員・犬屋敷壱郎(木梨憲武)は謎の事故に巻き込まれ、目が覚めると見た目は変わらず、体の中はサイボーグになっていた。超人的な能力を手にしたことを自覚した彼は、その力を人のために使うことで存在意義を見いだすようになる。一方、犬屋敷と同様の事故で同じ能力を備えた高校生・獅子神皓(佐藤健)は、敵対する人間を全て消し去りたいと考え……。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 端的に言うと、僕は漫画よりも、この映画の方が楽しめました。
 あるときサイボーグになった中年男性(犬屋敷)と男子高校生(獅子神)。
 獅子神は殺戮を繰り返すようになり、犬屋敷は人を助けるために力を使う。

 最終的にこの2人が戦って、うだつの上がらない中年男性がヒーローになるという、今までの、例えば「若く」て「スマート」で「イケメン」で「筋肉質」なヒーロー像とは真逆な展開です。
 この展開自体も今までのヒーロー像を裏切るもので面白かったのですが、興味深いのは最終的にヒーローになる中年男性犬屋敷も大量殺戮者となる男子高校生獅子神も「孤独」を抱えている点です。

 つい先日起きた川崎市登戸での無差別殺傷事件の知らせを聞いて、子どもたちの安全が心配だ、という報道に対して僕は、それよりも、孤独を抱えている人たちのことが心配だと思いました。
 今回の現実に起きてしまったような無差別殺傷事件を防ぐ方法は、あらゆる所に防犯カメラを付けることではありません。
 ある報道では、人々の「不審な動き」を察知出来るようにする、というものがありましたが、もし「不審な動き」をしていたとしても、十数秒での出来事を防ぐことは出来ないでしょう。
 警察官や警備員が駆けつけたときには既に人々は傷つけられたあとです。

  だから、そこら中に監視カメラを設置して人々の行動を監視するよりも、必要なのは、人生に絶望しても「生きていける」という実感と制度が整った「安心して絶望できる社会」だと思います。
(ちなみに「安心して絶望できる人生」というのは、浦河べてるの家の言葉です)

 どんなひどい境遇であっても、死にたいと思うような出来事があっても、死ぬことなく、安心して生きてける社会。
  それこそが必要で、この映画では、絶望故に殺戮を繰り返す獅子神と、絶望的だったにも関わらず、自分の生きる意味を見出していく犬屋敷という、結末は全く違うものの出発点が同じだったところが、なんとも示唆的な物語だと感じました。