映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

今村夏子『こちらあみ子』

 去年だったか一昨年だったか、書評を読んで読みたいなぁ、と思った作品があります。
 その作品は『星の子』というものなのですが、中々文庫にもならず、近所に図書館もないので読む機会が無いなぁ、と思っていたら、同じ著者によるこの作品の評価も高かったので手に取って読んでみることにしました。
 

こちらあみ子 (ちくま文庫) Kindle版

 

筑摩書房 こちらあみ子 今村夏子

 

内容筑摩書房ホームページより)
あみ子は、少し風変わりな女の子。優しい父、一緒に登下校をしてくれ兄、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいる母、憧れの同級生のり君。純粋なあみ子の行動が、周囲の人々を否応なしに変えていく過程を少女の無垢な視線で鮮やかに描き、独自の世界を示した、第26回太宰治賞、第24回三島由紀夫賞受賞の異才のデビュー作。書き下ろし短編「チズさん」を収録。

 

感想
 表題作含め3編の短編が収められているのですが、冒頭に載っている表題作の主人公の容姿についてまず端的に驚きました。
 その容姿に至った理由がその後の展開で明らかになっていくのですが、直接的な表現を使うことなく、あみ子の様子を浮かび上がらせる表現力にただただ圧倒されました。

 また、書き下ろしだという「チズさん」も「こちらあみ子」ほどの衝撃的な物語ではないのですが、日常の一コマを華麗に切り取っているように感じました。

 「こちらあみ子」のあみ子も「チズさん」も、出会ったことはないかもしれないけれど、いる、ということを実感できる人間で、それを伝える表現力というか文章力が見事でした。

 内容の展開的には感動したり、幸せな気持ちになったり、あるいはドキドキしたりということはないのですが、日常のちょっとした出来事によって大きな変化を起きたり、本人の意図とは全く違う結果を招いてしまうことなど、普遍性を持った物語だと感じました。