矢部太郎『大家さんと僕』
手塚治虫賞を先日受賞していましたし、かなり売れているようなので、既に読んだ人も多いかも知れませんが、矢部太郎さんの『大家さんと僕』を読んでみました。
以前から気になっていた作品ではあったのですが、(節約生活をしていることもあり)読まずにいました。
けれど、先日の手塚治虫賞授賞式でのスピーチを読んで、そのスピーチがとても勇気づけられるものだったので、もしかしたら似たようなことが作品の中にも出てくるのかな、と思って読んでみました。
スピーチの全文は以下のサイトから読むことが出来ます。
簡潔なスピーチですが、僕がすごく良いな、と思ったのはこの部分です。
でも一番は、大家さんがいつも、「矢部さんはいいわね、まだまだお若くて何でもできて。これからが楽しみですね」と言って下さっていたのですね。ご飯を食べていても、散歩をしていても、ずっといつも言って下さるので、本当に若いような気がしてきて、本当に何でもできるような気がしてきて……。これはあまり人には言っていないのですが、僕の中では、38歳だけど18歳だと思うようにしていました。だからいま、20歳(ハタチ)なんです。何を開き直っているんだと思われるかもしれませんが、これは本当に効果があって、10代だと思ったら大概の失敗は許せました。
矢部さんが漫画を描き始めたのが38歳の時で、多くの人は38歳の年齢で新しいことを始める、というのを聞いたときに、ネガティブな反応をしてくるけれど、矢部さんの身近な人は「出来るよ」と言ってくれた、そして、大家さんもこの発言のように言ってくれたということです。
僕も34歳の今年、この年齢で突然家族から放り出され、主夫だったので、社会的地位や関係も金もほとんどない状態になりました。
当初(というか今も)かなり「この年齢で1から始められるのか」と不安になることがあります。
それでも、実際に戦争を体験し、その人生で多くの時間を「独り身」で過ごしてきた身近な大家さんが「まだまだお若くて何でもできて。これからが楽しみですね」と「ずっといつも言って下さるので、本当に若いような気がしてきて、本当に何でもできるような気が」するのだと思います。
実際に生き抜いてきた人だからという言葉の重み、そして、さらに肝心なのは「ずっといつも言って下さる」ということなのだと思います。
こういう言葉が作品の中にも出てくるのかなぁ、と思って読んでみたのでした。
残念ながら、僕の期待していた励ましてくれるような発言はなかったのですが、大家さんと店子という、家族でもない2人の、それでも家族よりもお互いの生活をよく知っているという、家族よりも近い2人のやりとりが柔和なタッチで描かれています。
生きてきた経験が違ったりすることから起きるギャップでのユーモアもあり、和やかな気持ちにさせてくれる作品でした。
作品にはあまり描かれていなかったものの、「いつも励ましてくれる」という存在は自分にとっても必要だと感じていますし、僕も周りの人にとってそんな存在になりたいな、と思います。