映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「アルフィー」

 東京医大の入試で女性受験者や浪人生が減点されていたことが報道され、これまで沢山の差別にあってきた人たちが沢山の声を上げていました。
 これほど卑劣なことは聞いたことがありませんが、僕にとって忘れられない出来事があります。

 それは、僕は主夫だったので子どもたちが小さな時から一緒に出かけていましたが、子どもたちがぐずったりしても文句を言われたことはありませんでした。
 しかし、元配偶者と子どもたちと一緒に出かけた際、電車の中でしりとりをしていたら、近くに座っていた中年男性が元配偶者に「うるさい」「子どもたちをなんとかしろ」というようなことを言ったのです。
 もちろん大声でやっていたわけではないですし、静かに移動したいならタクシーにでも乗れば良いと思うのですが、それよりも、ほとんど子どもたちと外出しない元配偶者が文句を言われ、毎日のように一緒にいる僕が今まで一度もこういう目に遭ったことがない、ということが衝撃的でした。

 これは、「差別」というような出来事ではないかも知れません。
 けれど、中年男性が元配偶者に文句を言ったのは、元配偶者が女性だからということは明らかです。
 男性は女性よりもなぜか上にいて、男性には言えないことも女性や子どもには平気で言える。
 本人たちが意識的に区別しているわけではないだろうことに、余計深刻だと感じています。

 さて、今回の映画、まさに女性を軽視している男の物語です。
 


アルフィー (字幕版)

 
作品データ映画.comより)
監督 ルイス・ギルバート
原題 Alfie
製作年 1966年
製作国 イギリス
配給 パラマウント

ストーリー(映画.comより)
アルフィー(M・ケイン)は、ロンドンのイースト・エンドの汚ないアパートに住んでいたが、身なりだけは素晴らしく、スキがなかった。それというのも彼は女性が好きで、女性の好みにしたがって身なりをかえたり、それにふさわしい態度をとる習慣が出来上っていたからだ。最初に征服したのはシディ(M・マーティン)であった。次がギルダ、彼女が結婚した時にはショックだった。そのショックがぬけきらない時、アルフィーは自分の肺が結核におかされていることを知った。療養生活はありがたくなかった。だが担当の女医は美しかったし、看護婦にもかわいこちゃんが大勢いたから楽しかった。退院したアルフィーはある日、となりのベッドにいたハリーを見舞った。そこには欲求不満顔の彼の妻リリーが来ていた。そしてアルフイーは早速モーションをかけるのだった。アルフィーは転々と職をかえた。その間、彼は金持の女ルビー(S・ウィンタース)や、アニーという娘を知ったが、楽観的な彼の予想とは逆に、ルビーはしばらくするとアルフィーより若いギタリストを見つけていたし、アニーはボーイフレンドに連れ去られてしまった。いったい俺の魅力はどうなったのだろう。こんなことは今までになかったことだ。と考えるアルフィーの目の前にシディが現われた。最初の女だ。そしてたちまちデートの約束が出来上った。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 個人的にこの世の中で不思議だなと思うことの1つに、「クズ」な男に惹かれる女性がいたり、「クズ」が女性たちにモテるということがあります。
 この作品の主人公アルフィーはモテ、出会う女性たちと次々に関係を持ちます。
 今から50年以上前だとしても女性軽視も甚だしく、相手の女性が妊娠したと分かれば中絶を促し、「縛られたくない」と家に帰る時間も、出かける場所も、食事がいるかも答えず、逆に女性を叱責します。

 お金持ちという訳でもなく、なぜアルフィーがモテるのか、女性たちは何を彼に求めているのかよく分からないのですが、1つアルフィーの良いところをあげるとすれば、若い女性から年増の寡婦まで、女性を選り好みしない、というところです。

 最後に描かれる展開は本当に衝撃的で救いのない絶望的な場面です。
 その場面で初めてアルフィーは涙を見せます。
 そして、すべての女性が去って行ったあと、彼は最後にこう語りました。

彼女たちがしてくれたことをすべて思い起こすと、おれは幸せ者に見える。
得たものは?
数シリング、イキな服を数着、車
健康も取り戻し、自由な身だ。
だが心の安らぎがない
何もないのと一緒だ
片方が手に入れば
もう一方が入らない
何が答えだ?
いつも自問する
人生とは
わかるか?

 
 ラストにかけて絶望的な展開になりますが、このアルフィーの言葉が唯一の救いであるように思いました。
 今まで、次々に女性たちと関係を持ち、その女性たちを軽視しひどい扱いをしてきたとき、いつも彼は笑顔でした。
 アルフィーはそれを楽しんでいたし、後悔することもなく、自分のやっていることに疑問も感じていないのではないか。

 最初に書いた電車での中年男性のように、自分がやっていることを分かっていないということが一番絶望的なことだと思うのですが、アルフィーは最後に自分のやっていることに問いかけています。
 これはこの作品で描かれるひどい展開の中で、救いのあるラストだと感じました。