映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「アンチクライスト」

 突然の引っ越し(というか追い出された)だったので、通っていた教会からも遠くなってしまいました。
 今住んでいる所の割と近く、一駅のところにもあるのですが、その教会の牧師はちょっと訳ありだったり、以前は自転車で行ける距離にあった教会に通っていたので、一駅でも遠い感覚がしてしまい、結局教会から疎遠になってしまいました。

 Amazonで新しく無料で観られる作品が増えていないか見ていたら、オススメとして表示された作品が「アンチクライスト」=反キリストというものだったので、観てみることにしました。
 


アンチクライスト(字幕版)

 

作品データ映画.comより)
監督・脚本ラース・フォン・トリアー
原題 Antichrist
製作年 2009年
製作国 デンマーク・ドイツ・フランス・スウェーデン・イタリア・ポーランド合作
配給 キングレコード、iae
上映時間 104分
映倫区分 R18+

あらすじシネマトゥデイより)
 愛し合っている最中に息子を事故で失った妻(シャルロット・ゲンズブール)は罪悪感から精神を病んでしまい、セラピストの夫(ウィレム・デフォー)は妻を何とかしようと森の中にあるエデンと呼ぶ山小屋に連れて行って治療を試みるが、事態はますます悪化していき……。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★☆☆

感想
 この作品「アンチクライスト」の監督ラース・フォン・トリアーは日本ではビョークが主演した「ダンサー・イン・ザ・ダーク」が一番有名なのではないかと思います。
 僕も「ダンサー・イン・ザ・ダーク」も好きな映画ではあるのですが、強烈な印象を持っているのは、「ニンフォマニアック」です。

 「ニンフォマニアック」はニンフォマニア=色情症を自認する女性ジョーの幼少期から50歳までの生=性をめぐる旅路を追う物語です。
 日本でも劇場公開されたものの、セックスシーンも多いので、この作品も日本独自のモザイクがかかっています。
 モザイクがあるだけで興ざめしてしまうので、僕は輸入盤で観てみました。
 (ちなみに、僕の机の後ろにあった本棚にDVDを置いておいたら、元配偶者がAVだとでも思ったのか、過剰に反応していました。
 そういえば、あの人は「性」をタブー視していたので、その辺の感覚も自分とは結構すれ違っていたな、と思います。)

 さて、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」、「ニンフォマニアック」と同じくラース・フォン・トリアー監督作品なのですが、何が「アンチクライスト」=反キリストなのか。
 それは、直接的にキリスト教の考えだったり、教会というものが出てくるわけではないのですが、主に中世での魔女、また、近世における、女性のヒステリーが主題になっています。

 かつて(今も?)広く行われていた魔女狩りでの魔女、あるいはヒステリーと呼ばれるものは、一説では女性の性欲を過剰に抑圧した結果、女性に現れた行動を周囲の人たちが魔女やヒステリーと考えたとされています。

 この「性の抑圧」がこの物語の中心テーマになっています。
 「ニンフォマニアック」ではこの「性の抑圧」に関して、徹底的に「性の解放」を描いていますが、この「アンチクライスト」では「アンチクライスト」というタイトルにも関わらず、徹底的に「性の抑圧」が行われます。

 セックスをしている最中に息子が事故死してしまうことから、セックスを否定的に捉えることから始まり、夫にセックスを求めると、夫は「自分はセラピストだから。セラピストとセックスしてはいけない」と拒否されます。

 夫は徐々に妻とのセックスを受け入れていくのですが、途中、夫婦の会話で「フロイトは死んだ」という場面があります。
 ニーチェが言った「神は死んだ」ということになぞらえたものですが、「フロイトは死んだ」ということはつまり、「ヒステリーの原因は抑圧された性欲である」というフロイトの考え方が死んだ=女性の性欲が解放される、ということを示唆しています。

 しかし、二人がそのような会話を交わしたにもかかわらず、結局夫は解放された妻=女性の性を受け入れることは出来ず、これ以上ない形で抑圧します。
 最終的に「アンチクライスト」というタイトルではあるものの、キリスト教的価値観から解放されなかった、現代でもその価値観がはびこっているということを示唆しているように思います。

 レビューの中には、これは「女性嫌悪ミソジニー)」の最たるもの、というようなものもありましたが、僕としては、結局現代においても、女性の性や性欲を抑圧しようとしている現実がある、ということを示しているのではないか、と思いました。