映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「アメリカン・ハニー」

 いつも聞いているラジオ番組のゲストとして、グッチーズ・フリースクールが出演していました。 

 

www.tbsradio.jp

 

Gucchi's Free School(グッチーズ・フリースクール)


 グッチーズ・フリースクールとは、日本未公開映画の紹介、上映を企画・運営する団体だそうで、番組を聞いて初めてその存在を知りました。
 番組の中で、グッチーズ・フリースクールの活動そのものや、いくつかの映画を紹介していたのですが、メンバーが紹介したいと思っていた作品がAmazonで見られるようになっている、ということで紹介されていた作品が、今回観たものです。

 劇場公開されていないので、各種映画サイトにも紹介がなく、下記の作品データやあらすじは僕が書いたものになります。
 また、劇場公開されていないのでレーティングも設定されていないようですが、(セックスシーンではなく)ペニスが映っているシーン、性器や胸などは映っていないセックスシーン、その際にタンポンを取るシーンなどがあるので、R15+くらいで観た方が良いと思います。


アメリカン・ハニー (字幕版)

 

American Honey – Official Movie Site(英語)


作品データ
監督 アンドレア・アーノルド
原題 American Honey
製作年 2016年
製作国 イギリス
上映時間 163分

あらすじ
 ある日、2人の子どもたちの面倒を見るスター(サーシャ・レーン)は、ティーンエイジャーでいっぱいの車を見つけ、グループの一人であるジェイク(シャイア・ラブーフ)と出会う。
 ジェイクはスターに仕事があるから一緒に来ないかと誘い、スターはクラブハウスで踊っていた母親に子どもたちを預け、ジェイクに言われた場所へ向かう。
 ジェイクはグループのボスであるクリスタル(ライリー・キーオ)にスターを紹介し、彼らと一緒に働くことに。
 車の中には、様々な場所からやってきた若者たちが乗っていた。
 彼らの仕事は様々な街を訪れて訪問販売で雑誌を売ること。
 スターは稼ぎ頭のジェイクとペアで仕事をしていくことに。
 スターは仕事のやり方に疑問を抱きながらも、クリスタルの指示に従って、様々な街に行って訪問販売を繰り返す。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★★

感想
 物語の冒頭から衝撃的なシーンで始まります。
 それは、主人公スターが幼い妹弟と一緒に大きなゴミ箱から食べられそうなものを探している場面。
 家に帰ると自分の都合で動く父親がいて、彼はスターに性的な行為もしてくる。
母親はどこにいるか分かっているけれど、家にはおらず、子どもたちの世話や家事をするのはスター。
 この家で、あるいはこの街で過ごし続けて明るい未来は全くないことが分かります。

 何も失うものもないスターが、ほんの少しの希望を持って臨んだ仕事も決して明るい未来を描けるものでもない。
 スターと同じように、家族もなく、どこにも居場所のない若者が集まって、人々の同情を買ったり、嘘をついて雑誌の定期購読契約をしてもらう、というのが彼らの仕事。
 たとえ契約を取れたとしても、年間で1種類35ドルとかで、その20%くらいが自分の取り分になるので、入ってくるお金は10ドルにも満たない。
 仕事の内容ややり方に疑問を持っても、この仕事をし続けるしかないという、彼らの、スターの置かれた情況が「American Honey」=「アメリカの女の子」というタイトルで表されています。

 特に印象的だったのは、彼らのグループのような、モーテルに泊まりながらいろんな街を巡って仕事をしているグループが他にもいるということ。
 作品の中では黒人のグループが登場するのですが、印象的だったのは、その中に「障がい」を持っている人がいたことです。
 スターのグループにも精神を病んでいると思われるメンバーがいるのですが、日本でも境界線上にいる人たちが性風俗、しかも、「底辺」と呼ばれるような店舗にいることが明らかになっていますが、この作品では性風俗ではないけれど、社会の「底辺」とも言える場所で生きていく姿が描かれています。

 また、この作品ではその中で流れる歌が重要な意味を持っていました。
 特にリアーナ(Rihanna)の「We Found Love」は、スターが彼らと初めて出会う場面で流れ、彼らが長い旅を過ごす上で楽しむためのルールとして、この曲が流れたら踊ることになっていて、何度か流れます。
 この曲が流れるとグループのメンバーは車の中だろうが楽しそうに踊り出すのですが、歌詞はとても強烈な内容です。
 詳しくは以下のサイトを見てもらいたいのですが、少しだけ引用して訳してみます。

【洋楽歌詞和訳】We Found Love / Riahnna(リアーナ) - 洋楽ハック!歌詞和訳サイト

 

It's like you're screaming, and no one can hear
叫んでも誰にも聞こえない、そんな感じ
You almost feel ashamed
自分だけが最低な人間だと感じる
That someone could be that important
自分以外の人間は価値があるように思える
That without them, you feel like nothing
彼らがいなければ、自分には価値がないように感じる
No one will ever understand how much it hurts
誰も自分のつらさなんて分からない
You feel hopeless; like nothing can save you
希望もなく、何も自分を救うことはない
And when it's over, and it's gone
だから、薬をやって、忘れ去ったとしても
You almost wish that you could have all that bad stuff back
イヤなことがなくなったらそれはそれで不安になる
So that you could have the good
そう、これだけが良いことだから

 

 歌詞の中には薬を使っていると思われる内容が含まれていますが、実際に、映画の中で彼らはマリファナを吸い、酒を飲み、スターはたばこを吸い続けています。
 それをやって幸せになれるわけではないことは彼らも当然分かっているけれど、それをやることによって一瞬でも気持ちよくなりたい。
 それをやらずにはいられない。
 その一瞬だけを希望にして生きているのだと、映画の内容からも、歌詞からもわかります。

 また、タイトルの「アメリカン・ハニー」はLady Antebellumの曲で、それも作中に出てきます。
 長くなるので、リンクだけにしておきますが、こちらは直接的に物語とリンクする内容の歌になっているので、歌詞だけでも読んでみると、より作品を理解出来るのではないかと思います。

American Honey 和訳 | Enchanted