映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「ノーマル・ハート」

 Amazonプライムで観られる作品を眺めていたら、レビューの評価が高かったので観てみた作品です。
 映画の分類に含まれていたので、時間も132分で映画だと思っていましたが、映画ではなくHBO(アメリカのケーブルテレビ局)作成のドラマでした。
 


ノーマルハート (字幕版)


作品データFilmarksより)
監督 ライアン・マーフィー
原題 The Normal Heart
製作年 2014年
製作国 アメリ
配給 HBO
上映時間 132分

 

ストーリースターチャンネルより)
1981年。ジャーナリストのネッドは、ゲイの間で奇妙な伝染病が広まっている噂を耳にする。自身もゲイである彼が病院を訪れると、担当の女性医師は「この病気にかかった患者は、皆死ぬことになる」と衝撃の言葉を口にする。この病気のことを世間に認知してもらうため、ネッドは仲間たちと共に団体を設立。ゲイに対して好意的なニューヨーク・タイムズの記者フェリックスを紹介されたネッドは、やがて彼と恋に落ちるが…。

 

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★★

感想
 LGBTHIV/AIDSを扱っていて、出演している俳優も主人公ネッドがマーク・ラファロ、ネッドと協力しながらHIV/AIDS患者を治療し、研究しようとする医師エマをジュリア・ロバーツが演じていて、なぜこの作品のことを知らなかったのだろう?と思ったら、最初に書いたように、映画ではなく、ドラマだったからでした。
 なので、普段見ている映画評にも出てこないし、アカデミー賞などにも引っかからないので、知らなかったようです。

 作品の舞台は、ちょうど僕が生まれた頃のアメリカ。
 激しい差別を受けていた時期から少し改善し、ゲイの人々もゲイコミュニティでは性も生も謳歌することが出来るようになっていました。

 その中で発生したのが、HIVとその感染によるAIDS。
 最初、その原因が全く分からず、患者の多くがゲイだったことで、再度激しい差別にさらされます。
 それに対して、医療的援助と研究を求める為に立ち上がったネッドと彼らがGMHC(Gay Men's Health Crisis=ゲイの男性たちの医療危機)という組織を作り、ゲイへの情報提供、患者への支援、行政への支援要請を行っていきます。

 けれど、ネッドはテレビで市長がゲイであることをアウティングしたり、過激な発言をするので、組織内で孤立していき、最終的には組織から追い出されてしまいます。
 それと並行して、私生活ではニューヨーク・タイムス紙の記者だったフェリックスと出会い、惹かれ合い、結婚します。
 順調だと思ったフェリックスとの生活も、フェリックスもHIVに感染し、AIDSを発症し、最終的に亡くなってしまいます。

 この世間とのゲイへの偏見やHIV/AIDSへの支援要請をしつつも、組織内では孤立する様子と、最愛のパートナーがAIDSを発症し、日に日に弱っていく様子が重なり、とても辛い内容でした。
 また、先日紹介した「さよなら、僕のマンハッタン」の元になっているサイモン&ガーファンクルの「ニューヨークの少年」がラストシーンで流れ、この物語では、「The only living boy in New York」(ニューヨークでひとりぼっちの少年)の歌詞が悲しく響いてきました。

 なので、エミー賞で作品賞を受賞したり、ゴールデングローブ賞でフェリックスを演じたマット・ボマー助演男優賞を受賞したことがよく分かるとても優れた作品でした。
 特にマット・ボマーはAIDS発症後を演じるに当たって、15kgも体重を落としたようで、マット・ボマー本人がゲイであることをカミングアウトしていることも関係しているのか、役に対する準備がものすごく伝わってきて、ゴールデングローブ賞受賞は納得の演技でした。

 けれど、気になったのは、「現在の」HIV/AIDSを巡る状況についての説明がされていなかった点です。
 ラストの字幕では、この後(1983年)アメリカでどのような対策が取られたのか、世界でどのくらいの患者が亡くなったのかについて触れられるものの、現在に関しては毎日6000人の感染者が発生していることしか触れられていませんでした。

 これでは「恐ろしい病気」ということだけを観ている人に植え付けてしまうと思いました。
 日本はいわゆるG7参加国の中で唯一HIV感染者が増加している国で、正しい知識が知られていたり、教育されているとは全く思えませんが、HIV自体はこの作品で描かれている時とは全く状況が変わっていて、薬で症状を抑えられ、適切な方法を取っていればセックスをしても相手に感染させることもなく、母子感染も防げる状況になっています。

 もちろん、HIV/AIDSに関して、「恐れる」ことは必要なことなのですが、この30年で状況は良い方にものすごく変わっているので、「正しく恐れる」ことが出来るようになるように、字幕で説明されていれば良かったのに、と残念でした。
 それにしても、最初、AIDSが「gay cancer=ゲイの癌」と言われていたことなど、全く知らなかったし、マーク・ラファロマット・ボマー含め、出演陣の演技がもの凄く良かったです。