映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

岸政彦『はじめての沖縄』

 この秋は、沖縄で知事や名護市長選挙があり、メディアでも様々な角度から沖縄やその選挙について取り上げられていました。
 ネットメディアではポリタスに載っていた樋口耕太郎さんの論考が秀逸だったのですが、改めて沖縄について、知るところから初めてみようと思いました。

沖縄から貧困がなくならない、本当の、本当の理由(樋口耕太郎)|ポリタス 『沖縄県知事選2018』から考える


 そんな時、社会学者の岸政彦さんが、沖縄についての本を、復刊したよりみちパン!セから出されたということで読んでみました。
 


はじめての沖縄 (よりみちパン! セ)


 今では大学で教員となっている著者が、初めて沖縄に行くようになり、とりつかれるようになった頃から30年近くで考えてきたことや見てきたこと、聞いてきたこと、そして撮ってきた写真が収められています。

 ガイドブックではないし、沖縄の歴史について解説されたものでもありません。
 その意味では「はじめての沖縄」というタイトルから、初めて沖縄に行くために、ガイドブックのようなものだと思って手に取ると期待したものとは違う内容になっているかも知れません。

 けれど、沖縄、ということを語るときに、戦争だったり、きれいな海だとか、そういった決まり切った面だけではなく、そもそもそこにどのような人たちが暮らしているのか、ということを聞き取り、それを聞いて考えたことが書かれているのがこの本の内容になります。

 著者の研究テーマの1つに生活史=Life Historyというものがあるのですが、人々の話を聞くことを通して、歴史というものを明らかにしているように感じました。
 それは、歴史=historyというものが、hisとstoryという言葉から成り立っていること、つまり、彼や彼女の物語を通して、歴史が明らかになる、ということです。

 沖縄戦というもの、あるいは戦争後の沖縄というものを捉えようとしたときに、そこにはそこで暮らす人たちがいるわけで、それらの人たち、そこにいた人はそのとき何を考えていたのか、何をしていたのか、それらの1つ1つが重ね合わされることによって、沖縄戦だとか、戦争後の沖縄、というものが少しずつ浮かび上がってくるのだと思います。

 それはつまり、どんな人にもでも語られる物語があり、残すべき物語があるということで、その、著者の人間に対するまなざしがあるからこそ、このような語りが行われたのだろうと感じました。