映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「ラビング 愛という名前のふたり」

 先日書いた「未来を花束にして」は約100年前のイギリスでの女性参政権を巡る運動を描いた作品ですが、今回は約50年前のアメリカで違法とされていた異人種間(具体的には白人と非白人)結婚で違憲判決を勝ち取った夫婦を描いた作品です。
 約100年前にイギリスに女性参政権がなかったことにも驚いたのですが、約50年前(僕の親が20代の頃)に、異人種間結婚が禁止され、処罰の対象になってていたことにもとても驚きました。
 公開された時から観たいと思っていたのですが、先日Amazonプライムで観られるようになったのでみてみました。 
 


ラビング 愛という名前のふたり(字幕版)

 

youtu.be

 

映画『ラビング 愛という名前のふたり』公式サイト

作品データ映画.comより)
監督 ジェフ・ニコルズ
原題 Loving
製作年 2016年
製作国 イギリス・アメリカ合作
配給 ギャガ
上映時間 122分
映倫区分 G

内容(公式サイトより)
ある夜、突然逮捕されたラビング夫妻。その罪の名は、“結婚”──今からわずか60年前のこと、アメリカのいくつもの州で異人種間の結婚が禁じられていた。だが、活動家でもなく、ごく普通の労働者階級のラビング夫妻の訴えによって、1967年に遂に法律が変わる。この驚くべき実話に深い感銘を受けた名優コリン・ファースがプロデューサーを名乗り出て、映画化が実現した。
いったい、ラビング夫妻はどうやって国を動かしたのか? きっかけは、妻のミルドレッドが、ケネディ大統領の弟であるロバート・ケネディ司法長官に書いた1通の手紙。愛する夫のリチャードと生まれ故郷で夫婦として暮らしたいと願ったのだ。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 とても静かな映画でした。
 違憲判決を勝ち取った、しかも、「差別」に関しての裁判なので、「闘い」が描かれるかと思いきや、そうではありませんでした。

 2人が結婚し、その結婚が当時違法とされていた、白人と非白人との結婚だったために2人ともが逮捕され、裁判を受ける。
 裁判の結果、州内で暮らすことが出来なくなり、隣の州に移り住むことに。
 そこで子どもも生まれ暮らしていたけれど、やはり両親やきょうだい、親戚が今も暮らし、かつて自分たちも暮らしていた地元に帰って暮らしたいと望むように。
 けれども、それを実現するには、法を再度破ることになるので、司法長官に手紙を送ったところ、裁判をすることになり、連邦裁判所で違憲判決を勝ち取る、という内容を、ゆっくりと、そして静かに描いています。

 静かなのは、その描き方だけではなくて、夫妻2人ともの性格もとても静かです。
 夫のリチャードは、1人黒人の中に混ざって酒を飲んでいるときに、差別的な言葉を投げかけられ、それを聞いた他の1人が怒る中でも、ただ深い悲しみの様子を表すだけで、決して怒ったりすることはありません。
 また、妻のミルドレッドも同様に、司法長官に手紙を送ったり、リチャードが若干の抵抗を示す中、取材を受けたりと積極的に動くものの、それは決して闘争的なものではなく、あくまでも、自分たちの存在を認めてもらいたい、ということだけで、何かを強く訴えることもありません。
 それがよく現れているのが最高裁での裁判で、2人は行けない距離でもないけれど、出席しなかったことです。

 この裁判の結果は、当時違法としている州があった異人種間結婚が違憲であり、異人種間結婚が認めれることになっただけでなく、それから約50年経って同性婚違憲ではないということの大きな根拠にもなるという大きなものでした。
 けれど、その裁判の当事者であるラビング夫妻は最高裁に行くことなく、普段の生活をして過ごしました。

 この、今にも大きな影響を与えている判決を勝ち取った裁判の当事者であるにも関わらず、「この驚くべき実話」と書かれるくらい、人々に知られることのなかったことからも2人の人柄がにじんでくるような気がします。
 その静かな様子は、エンターテインメントとしての映画にとっては物足りなさを感じる部分かも知れませんが、それでも人が生活することを通して変化が起きるということ、忘れられてしまうような小さな営みの蓄積によって今の姿があるということを伝えているように感じました。