映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「死にゆく妻との旅路」

 公開からちょっと時間が経っていますが、Amazonで表示された時に、そういえば観てなかったなと思い、観てみた作品です。
 


死にゆく妻との旅路

 
作品データ映画.comより)
監督 塙幸成
製作年 2011年
製作国 日本
配給 ショウゲート
上映時間 113分
映倫区分 G

あらすじシネマトゥデイより)
平凡な家庭を築き小さな縫製工場を営む清水久典(三浦友和)は、バブル崩壊で工場経営が傾き多額の借金を抱える羽目に。がんの手術をしたばかりの妻ひとみ(石田ゆり子)を残して金策に駆け回るが、金策も職探しも空振りの状態が続く。気の休まらない日々を過ごしていたある日、夫妻はあてもなく日本各地をさすらう旅に出る。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 観るまでは知らなかったのですが、実話を元にした作品とのことで、本(『死にゆく妻との旅路 』(新潮文庫) )になっていました。
 Wikipediaによると、清水久典さんは1999年12月に妻に対する保護責任者遺棄致死罪で逮捕され、がんを患う妻との逮捕されるまでの9ヶ月に渡るワゴン車での旅路を綴った手記が2000年に発表されたとのことです。


 この手記に書かれた、がんを患う妻との9ヶ月に渡るワゴン車での旅の様子とその後の逮捕までが映画では描かれています。

 前半の日本各地を旅する様子は、はっきり言ってしまえば単調で、日本各地の様子が分かるものの、妻ひとみさんの体調もひどくないので、大きな展開はありません。
 大きく変わってくるのはやはりひとみさんの体調が悪くなってきてからで、元々がんの手術をしてから旅に出ているので、すぐに病院に連れて行くのですが、ひとみさんは拒否して、久典さんと一緒にいることを選びます。

 そして最後、ひとみさんが亡くなり、その責任を問われて久典さんは逮捕されます。
 そのときに警察官から言われる言葉が印象的でした。
 それは、「なぜ病院に連れて行かなかったのか?」ということです。
 けれど、それまで繰り返し描かれているのは、ひとみさんがかたくなに病院へ行くのを拒否する様子です。

 この逮捕される時に、観ている人に、「なぜこの状況で逮捕されるのか?」「なぜ罪に問われるのか?」という疑問を突きつけてきます。
 20年前の出来事だということもあると思いますが、今もし、ひとみさんのように、既に手術をしていて、そこから明確な意志を持って受診を拒否し、夫と一緒に旅に出るということであれば、罪に問われることはないような気がします。
 というか、これは時代というよりは、「手続き」の問題で、明確に本人の意志を伝える、公的に認められるものがあれば、久典さんが逮捕されるというようなこともなかったと思います。

 20年連れ添い、9ヶ月も一緒に旅をし、しかも、ワゴン車という看病するには困難な環境下で最後まで見届けた久典さんの行動はとても真似することは出来ません。
 けれど、最後まで分からなかったのは、なぜそんなにもひとみさんは病院に行くこと、夫久典さんと離れることを拒否したのか、ということです。

 各地を旅する様子を丁寧に描くのならば、出会いだけでなく、旅するまでの20年にどんなことがあったのか、ということを知りたいと思いました。
 出会いと最後はあったものの、その間がスポッと抜けている印象を受けました。

 また、1999年だからこういうことがあったという印象を作品から受けましたが、これからはもっとこういう、家がなく、行き場所もなく、(ひとみさんはちょっと違いましたが)病院にも行けず、治療を受けられずに死んでいく人というのは増えていくと思います。
 もちろん生活保護はありますが、そもそも生活保護の捕捉率(生活保護対象者に対して、実際に保護を受けている人の割合)が低いにもかかわらず、どんどん保護費が削られたり、受けられずにいるのに、保護を受けることが何か悪いことをしているように言われるこの国では、映画で描かれるような死はもっと増えていくと思います。