映画と本と自分と山

映画が半分、残りは本と自分、時々山登りについて

「未来を花束にして」

 Amazonで最近、好きな映画の「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」(紹介した記事はこちら)もプライムで観られるようになり、面白いのでもう一度観ようとチェックしたら表示された作品です。
 レビューの評価が高かったのと、そこに書いてあった「あなたの沈黙はあなたを守ってくれない。」という言葉が気になって観てみることにしました。
 


未来を花束にして(字幕版)

 

youtu.be

 

映画『未来を花束にして』公式サイト

作品データ映画.comより)
監督サラ・ガブロン
原題 Suffragette
製作年 2015年
製作国 イギリス
配給 ロングライド
上映時間 106分
映倫区分 G

ストーリー(公式サイトより)
1912年、ロンドン。劣悪な環境の洗濯工場で働くモードは、同じ職場の夫サニーと幼い息子ジョージの3人で暮らしている。
ある日、洗濯物を届ける途中でモードが洋品店のショーウィンドウをのぞき込んでいると、いきなりガラスに石が投げ込まれる。女性参政権運動を展開するWSPU(女性社会政治同盟)の"行動"の現場にぶつかったのだ。それが彼女と"サフラジェット"との出会いだった。
同じ頃、女性参政権運動への取り締まりが強化され、アイルランドでテロ対策に辣腕をふるったスティード警部が赴任してくる。彼は歴史上初となるカメラによる市民監視システムを導入し、無関係だったモードもターゲットの1人として認識されてしまう。
やがてモードに大きな転機が訪れる。下院の公聴会で証言をすることになったのだ。工場での待遇や身の上を語る経験を通して、初めて彼女は"違う生き方を望んでいる自分"を発見する。けれども法律改正の願いは届かず、デモに参加した大勢の女性が警官に殴打され、逮捕された。そんな彼女たちを励ましたのが、WSPUのカリスマ的リーダーであるエメリン・パンクハーストの演説だった―。

勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★☆

感想
 20世紀初頭のイギリス、ロンドンを舞台にして、女性参政権運動を繰り広げた実際の人物、活動を元にしながら、主人公モードは(多分)創作の人物です。
 父親が誰かも分からず、母親も洗濯婦で、その母親も幼い頃に亡くし、自分自身も洗濯婦として働き、同じ洗濯工場で働く夫と小さな息子と共にギリギリの生活をしています。
 映画の中では工場長からの性的暴行に遭遇してしまう場面があり、そこで、モード自身もかつて工場長から同じことをされていたことが暗喩されます。

 父親が分からなかったり、母親を幼いときに亡くしていたり、性暴力に遭っていたり、夫も働いているのにギリギリの暮らしをしていたり、それら1つ1つに注目すると、あたかも特別な状況に置かれているように思うかも知れませんが、あくまでも主人公のモードは当時、実際にいた女性の姿として描かれています。
 もちろん僕自身は100年前のイギリスやロンドンに詳しい訳ではありませんが、このような生活を送っている人たち(特に女性たち)は今ではロンドンではなく、他のいわゆる途上国にいるわけで、同じように暮らしていた人たちが100年前のロンドンにいたということです。

 今でもいるそれらの「末端」の労働者の姿として、よくいる人物として主人公モードが描かれています。
 1つ惜しかったのは、洗濯婦なので、手が荒れるだろうけれど、それについての描写が全く無かったことですが、それを抜きにしても、日々とにかく生きていくことだけで精一杯な姿が伝わってきます。

 そんな中で1つのきっかけで、自分たち女性にも、自分たちが「人間」であることを知り、自分たちも人間だということを伝えていくようになります。
 僕が目にしたレビューでは「あなたの沈黙はあなたを守ってくれない。」と言う言葉が書かれていましたが、主人公たち殆どの女性たちの殆どは自分たちに権利があることを知らなかったし、そのことを考えたこともなかったように思います。

 誰かに「それはパンだよ」と言われなければ、目の前にしているものがパンだということが分からないように、(物体としてそこに何かがあるのは分かっていても、それがパンだということが分からないように)そもそも自分たちが声を上げて良いと言うこと自体を知らなかった様子が描かれています。
 それは、自分たちに権利があることを知っていての「沈黙」とは違うものです。

 だからこそ、主人公モードは、活動に関わっていく中で、逮捕され、夫から家を追い出され、息子が養子に出されても決して沈黙することがありません。
 今まで知っていたけれど沈黙していたのではなくて、知らなかったから何も言えなかったからです。

 この映画では声を上げること、行動することの大切さも伝わってくるのですが、そもそも、「知る」ということがいかに重要なことなのか、そして、そのきっかけを作るための声を上げ、行動することの大切さを痛感させられました。
 それにしてもイギリスでさえ女性参政権が100年前までなかったということは驚きでした。
 この100年で大きく変わったと考えれば、もっと様々な「権利」が認められ、変わっていく可能性も感じます。