「オーバー・フェンス」
観たいと思い、チェックしていた作品がようやくAmazonプライムで観られるようになっていたので観てみた作品です。
観たいと思っていたのは、(いつものように)新聞での映画評を読んでいたからです。
フラットな世界、贅沢に表現 「オーバー・フェンス」函館3部作最終作:朝日新聞デジタル
オーバー・フェンス
作品データ(映画.comより)
監督 山下敦弘
製作年 2016年
製作国 日本
上映時間 112分
配給 東京テアトル
映倫区分 G
ストーリー(公式サイトより)
家庭をかえりみなかった男・白岩は、妻に見限られ、東京から故郷の函館に戻りつつも実家には顔を出さず、職業訓練に通いながら失業保険で暮らしていた。訓練校とアパートの往復、2本の缶ビールとコンビニ弁当の惰性の日々。なんの楽しみもなく、ただ働いて死ぬだけ、そう思っていた。
ある日、同じ職業訓練校に通う仲間の代島とキャバクラに連れて行かれ、そこで鳥の動きを真似る風変わりな若いホステスと出会う―。
名前は聡(さとし)。
「名前で苦労したけど親のこと悪く言わないで、頭悪いだけだから」
そんな風に話す、どこか危うさを持つ美しい聡に、白岩は急速に強く惹かれていくが…。自由と苦悶のはざまでもがく女の一途な魂にふれることで、男の鬱屈した心象は徐々に変化していくが、それでもままならない時間を過ごすしかない一組の男女。そして孤独と絶望しか知らなかった男たち。
勝手に五段階評価(基本的に甘いです)
★★★★★
感想
原作は佐藤泰志の小説で、それを元にした映画「函館三部作」の最終作と位置づけられている作品です。
「函館三部作」は「海炭市叙景」(未観)、「そこのみにて光輝く」、そして、今作「オーバー・フェンス」になります。
主演の聡を演じる蒼井優の演技力にはどの作品でも圧倒されますが、この作品ではオダギリジョーが蒼井優の演技力に圧倒されることなく、渡り合っているのが印象的でした。
ニヒリズムを感じさせるような、それでいてネガティブでもなく、ひょうひょうと生きているように見える白岩をうまく演じています。
すごく良いなと思ったのは、やはり聡の存在です。
その愛情表現が今の言葉で言えば「メンヘラ」と片付けられてしまうようなものなのですが、とてもストレートで、だからこそ起伏も激しい。
それに対して白岩は戸惑いつつも少しずつ受け止めていきます。
受け止めるとともに、聡のストレートな愛情表現に少しずつ自分を解放していく白岩。
また、白岩が通う職業訓練校で共に過ごす訓練生たちの存在、描写も秀逸でした。
大学ではなく、「職業訓練校」にしたところがとても良いと思います。
それは何故かというと、色んなバックグランドを持った人が集まっていると言うことです。
僕が通った大学というか学科は特殊な分野だったこともあり、国籍、年齢も割と色んな人がいましたが、それでも「大学」なのである程度同じような経済状況、学習環境で育ってきていました。
それが、職業訓練校ということでそれまでのバックグランドが全く違う人たちが一定期間を共にする。
白岩のように大手ゼネコンにいた人、年金をもらっている人、中学卒業後から働いてきた人といろんなバックグランドを持った人が集まっています。
だからこそ、軋轢も生まれるわけですが、「異質な他者」を受けいれる場にもなっている。
聡と白岩の二人の恋愛物語というよりは、「他者との出会い」をメインに、その他者を受けいれることによって、自分自身も解き放ち、変わっていくという、とても優れた作品だと感じました。